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762組もの仏縁がつながる日-「H1法話グランプリ2021」現地レポート
2021年10月30日
なら100年会館
宗派を超えたお坊さんたちによる
「H1法話グランプリ2021」がついに開催。
姫路から高速道路を東へ。
「こころね」取材班も
現地の奈良へ駆け付けました。
珠玉の8組の法話。
大会の模様を
臨場感伝わる写真とともに
どこよりも詳しく
ダイジェストでお届けします。
オープニング 和太鼓、書道、入仏の儀
2019年6月の「エピソード・ZERO」から1年5カ月。ついにH1の「エピソード1」が開催されました。
会場はなら100年会館大ホール。日本仏教発祥の地である奈良が、H1の本格始動の場所となります。
定員約1500席あるホールですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当日は762人の聴衆が、熱のこもった法話に耳を傾けました。
大会に先立ち、迫力満点の和太鼓の演奏、地元中学生たちによる書道パフォーマンス。そして、そこに書かれた「釈迦如来」の文字に向けた超宗派のお坊さんたちによる「入仏の儀」。
これがただの仏教イベントではない、仏前で行われる法話会であるのだということが分かり、びしっと、身が引き締まります。
書道パフォーマンスは、地元の奈良市立飛鳥中学校のアートパフォーマンス部の皆さんによって行われました。
圧巻のオープニングを目の当たりにし、ググっと緊張感が高まった場内。その後紹介された審査員の面々がとても豪華で、緊張感はさらに増します。
大会の模様はYouTubeでライブ配信。現地に駆け付けることのできなかった日本中の仏教ファンも各地から熱視線を送ります。
話す側も、聴く側も、そして審査する側も、このスケールは誰にとってもはじめて。独特の空気の中、登壇者たちは舞台に立ち、各々のスタイルで仏さまの教えを聴衆に向けて話します。
予選会を通過した8組の個性の異なる法話。審査基準は法話の優劣ではなく「また会いたいお坊さん」。投票権を持つ来場者762名の一人一人が真剣に耳を傾けます。
「また会いたい」をきっかけに始まる仏教とのご縁。かくも壮大なマッチングイベントがこれまでの仏教界にあったでしょうか。
H1法話グランプリ2021。8組の法話をダイジェストでお伝えします。
元気がほしくて、法話を聴く
№1「お寺で見つかる元気の源」
小林正尚師
(山梨県・日蓮宗見法寺)
人はどうして法話を聴こうとするのでしょうか。それはきっと「元気」を欲しているからなのかもしれません。
トップバッターは小林正尚師。元気の源が詰まっているお寺の魅力をランキング形式にして、小林さん自身も元気いっぱいのスタイルを貫き通しました。
運動、瞑想、自然、芸術。どれもが最近流行りの健康本や指南書などで目にする「元気ワード」ですが、これらをまるっと体験できる場所として、お寺があると力説します。
そして小林さんが第一位に挙げたのが、人と話すこと。
「仏教の本質は、苦しみや悩みを安心に変えていくこと。私も一人でも多くの人の悩みや苦しみを聴いていきたい」という小林さんの言葉に触れたことで、どこかの誰かの足がお寺に向いたならば、こんなに素晴らしいことはありません。
元気とは、目に見えない生きるための力。お寺には元気の源がたくさん詰まっています。あなたもどうぞ、お寺に足を運んでみませんか?
目に見えないものの力
№2「仏花が教えてくれたこと」
関本和弘師
(大阪府・融通念仏宗大念寺)
文明が高度に発達した社会に生きる私たちは、目に見えるものや数値に置き換えられるものに意味や根拠を見出しがちです。
その一方で、目に見えないものへの感受性が少しずつ抜け落ちているのではないでしょうか。
「きれいな花が咲き誇るのは、目には見えない土の中で、しっかりと根が張っているからです」
関本和弘師は、花と根の関係に私たちとご先祖さまのつながりを重ね、目に見えないものの大切さを説きます。
冒頭はいわゆる「お仏壇あるある」で笑いを取り、最後は「地面の下で私たちを支えるご先祖様、仏様、神様への水やりを、どうぞ忘れないで下さいね」と聴衆への投げかけで終わる。
じんわりとしたやさしい言葉の中に、大切なものを切り捨ててしまう現代社会に警鐘を鳴らす、大変力強い法話でした。
現代にまで受け継がれる伝統芸「絵解き」
№3「絵解き地獄絵」
畔柳優世師
(愛知県・浄土宗西山深草派養寿寺)
絵解き法話を披露したのは畔柳優世師。地獄絵図に描かれている世界を解説しながら、地獄のありさまや阿弥陀如来の慈悲を、達者な弁舌でよどみなく繰り出します。
笑いを取りながら仏さまのありがたさを説く迫力満点の絵解き法話は、起源を古代や中世に見る伝統芸能。その伝統の力が素朴な疑問を生じさせます。
審査員の後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)は「すでに完成された芸」と絶賛した上で、「アニメなどでより残酷な世界を見ている現代人たちは、地獄の世界や阿弥陀さまの慈悲をどうイマジネーションすればいいのか」と問うたのです。
また、審査員長の釋徹宗さんも、「ここで語られる地獄は死後の世界。今を生き地獄と捉えている人にどんな言葉を投げかけるか」と、鋭い指摘。
畔柳さんからは「信仰を持っていただきたい」と力強いストレートなアンサー。仏教が持つ伝統の力をどう現代人に届けるか。H1の大会意義が凝縮された、見どころあふれる瞬間でした。
大切な人を失って、その存在を身近に感じる
№4「コロナ禍でのお葬式-心の架け橋-」
田中宣照師
(兵庫県・高野山真言宗西室院)
コロナ禍は、たくさんの人々の生活を一変させ、多くの人の命を奪い去りました。お檀家さんを新型コロナウイルスで失った田中宣照師は、「亡くなった母がいつもそばにいる感じがする」というご遺族の言葉を自身に重ねます。
数年前にお父様に先立たれた田中さん。その時の心境を、一言ずつ、丁寧に、言葉にしていきます。自身も辛い経験をしているからこそ、ご遺族への共感や寄り添いの言葉が、やさしく、深い。
「毎朝本堂でお勤めしていると、すーっと父が降りてきます。そのたんびに、安心したり、悲しくなったり、自分自身が定まらないのです」
その定まらない自身の心を落ち着かせ、安心に転換してくれるものとして、先祖供養の祈りがあるのだと田中さん。
そして、いつもそばにいる、つながっていることを、真言宗の「同行二人」という言葉が教えてくれているのだと話します。
誰にも話せない悲しみを、私は知っているよ
№5「ままならない人生の中で」
舟川智也師
(福岡県・浄土真宗本願寺派両徳寺)
「お経さんは、先立った人のご供養のためだけでなく、その方を通じて仏さまとのご縁を結ぶあなたのためにある」
舟川智也師は、このように語り、法話を始めます。
心の奥底に秘めていたこの悲しみを誰かに聞いてほしい。でも、いざ話そうと思うと話せる相手ってなかなかいないものです。でも、そのことを阿弥陀如来さまは知って下さっている。
舟川さんの、やさしくも親しみ深いやわらかな九州なまりの言葉が、聴衆一人一人に語りかけます。
「私は知っているよ。あなたのその心の声を聴いているよ。あなたの心の声を聞いた時に、私は立ち上がらずにはいられない。そうして私は仏になる。そうお誓い下さった仏さまが阿弥陀さまです」
審査員のいとうせいこうさんに「真打登場」とまで言わしめた舟川さんの巧みな法話がじんわりと私たちの胸に染み入ったのは、阿弥陀さまとのお取次ぎとしてH1の舞台に立った舟川さんご自身の慈悲心に他ならないのでしょう。
自分の中にある清らかな尊さに気づく
№6「泥かぶらに学ぶ」
野田晋明師
(愛知県・臨済宗妙心寺派林昌寺)
自分自身を深く探求していくのは、禅宗ならではの姿勢です。
「無位の真人」という禅語を、この日はじめて知りました。なんでも「社会や他者からの評価に捉われない、私たち一人一人の中にあるもうひとりの素敵な私」のことなのだそうです。
参加8組の中で唯一の禅宗僧侶にして平成生まれ。野田晋明師は「無位の真人」の真意を『泥かぶら』という絵本の中に見出しました。
生まれつき醜い容貌から「泥かぶら」(泥をかぶった大根の意味)と呼ばれる少女。私もいつか美しくなりたいと願う彼女に「美しくなりたいのなら、自分を恥じず、いつも笑顔で、どんな時でも他人を思いやって行動するように」と説く旅の僧侶。その教えを実践することで、仏さまのように美しくなっていく泥かぶら。
自分の中にある清らかな尊さへの気づき。これまでのお坊さんたちがお寺や仏さまの素晴らしさを説く中で、自身の内面に目を向けさせてくれた野田さん。
「私自身も得票数が気になるものの…」と、思わず本音を語ってしまうところに好感の持てる、心洗われるフレッシュな法話でした。
暗闇に差し込む一筋の夜明けの光
№7「お薬師さまの心」
中田定慧師
(奈良県・華厳宗隔夜寺)
薬師如来は病気を治してくれる仏さまで有名ですが、「幽冥衆生悉蒙開暁」(暗闇に生きる全ての人が一人残らず夜明けを迎えられるようにする)を誓う仏さまでもあるのだと中田定慧師は話します。
暗闇とは、目の前のことに捉われている状態のこと。中田さんは、それを介護や病気に例えます。
分け隔てをすることのない仏さまの世界から見ると、介護をする方も受ける方も、ともに同じ困難に立ち向かう仲間なのだと中田さん。「お互いに迷惑だなんて思わなくていい。介護を通じて、周りの人たちとのきずなを深めてほしい」と話します。
たしかに、介護や病気は望むべきものではないかもしれませんが、そのおかげでまわりの人たちのありがたさに気づくきっかけにもなります。
目の前で起きていることに捉われず、ひとつ高い場所に立ってみる。すると視界が少しだけ開け、そこに一筋の光が差しこむ。これまで暗闇で見えなかった私の周りには、こんなにも私を支えてくれるたくさんの存在がいるんだということに気づきます。
暗闇が僅かながらに晴れ、ぱっと開かれた視界に差し込む一筋の光こそが、お薬師さまの「夜明け」の願い。
私も中田さんの話を聞きながら、いまの自分を少し高い位置から俯瞰してみました。すると、私とつながっているたくさんの人たちの顔が、あちこちから浮かんできたのです。
あなたは、いかがですか?
法華も弥陀も隔てはあらじ
№8「二刀流」
破石晋照師/南洞法玲師
(岩手県・天台宗壽徳院/金剛院)
ラストを飾るのは岩手県からの参加。天台宗の破石晋照師と南洞法玲師によるユニット法話。ここまでの大会を総括する、まさに集大成となる内容でした。
2人の掛け合いによって進む漫才コントのような法話。多様性を認め合うことの大切さを面白おかしく説きます。
タイトルは「二刀流」。同じ岩手県出身のメジャーリーガーの大谷翔平選手の二刀流を入り口に、「朝題目夕念仏」を掲げる天台宗の神髄を分かりやすく演じました。天台宗では、朝にお題目(南無妙法蓮華経)を唱え、夕にお念仏(南無阿弥陀仏)を唱えるのだそうです。まさに二刀流。
クライマックスは能や狂言の「宗論」のパロディ。お互いが題目(法華)と念仏(浄土)のそれぞれを主張しあうものの、最後は相手の宗論を認め合います。
7組の法話を経た「トリ」にふさわしい、まさに超宗派の意義を伝えるお見事な結末でした。
あなたが「また会いたい」と思うお坊さんは?
個性豊かな宗派の異なる八者八様の法話が終わり、「また会いたい」と思うお坊さんへの投票が始まります。
投票の数だけ仏縁が結ばれるわけですから、こんな仏教イベントってやっぱりないよなあと、投票会場にレンズを向けながら感慨にふけりました。
投票の結果、栄えあるグランプリに輝いたのは2番目に登壇した関本和弘師(融通念仏宗)。そして審査員特別賞は4番目に登壇した田中宣照師が受賞しました。
グランプリの関本和弘師(左)と、審査員特別賞の田中宣照師(右)
しかし、大切なのは得票数ではありません。1対1の仏縁が762組もできたことにこそ意味があります(厳密には一人3票あったため、2286組)。すべてのお坊さんたちが聴衆からの「また会いたい」という1票(=想い)を受け取ったわけです。
この大舞台に立ったお坊さんたち、惜しくも予選会を通過できずもこの舞台にチャレンジしたお坊さんたち、そしてこのようなすばらしい大会を運営された関係者のみなさまに、万雷の拍手と合掌をお送りしたいと思います。
南無仏教!
▶これまでの「H1法話グランプリ」の歩みを語って下さった、大会実行委員長・雲井雄善さんへのインタビュー記事はこちらへ!
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構成・撮影・文 玉川将人