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2023.10.26

「信は荘厳にあり」お寺の本堂改修プロジェクト完全密着取材【5.対談編】

「信は荘厳にあり」お寺の本堂改修プロジェクト完全密着取材【5.対談編】

本堂の修復事業を
無事に完成させることのできた
明源寺(宇和島市)の
櫻井雅之住職と
素心の代表
濱田和光による対談。

「信は荘厳なり」

心は形を整え、
形は心を表す。

信を担う僧侶と
荘厳を担う仏具店。
それぞれのプロフェッショナルが
手を携え合うことで
人々を安らぎで包みこむ
伝統的な宗教空間が
できあがります。

おふたりに
本堂改修プロジェクトを
振り返っていただきます。

櫻井住職と素心のご縁

- 愛媛県宇和島市のお寺が、兵庫県の素心とご縁を結ばれた。そのきっかけについて教えていただけますか?

櫻井住職 若いころに(兵庫県)西宮市の西福寺というお寺に法務員として従事していたのがそもそものきっかけです。西福寺には日本全国から法務員として働く若い僧侶たちが集まり、そこに濱田さんが出入りされていました。はじめは、仏具や荘厳のことなど全く興味がなかったというのが本音。でも、先輩僧侶の方々が濱田さんといろいろと深い話をされておられるのを横で聞いて、「面白い世界があるもんやなあ」と、徐々に関心が高まりました。

濱田 西福寺さまは、浄土真宗本願寺派の総長や龍谷大学の理事長を務められた豊原大成とよはらだいじょう先生のお寺でしたから、内陣の荘厳仏具へのこだわりも、それはそれはすごかったですね。

櫻井住職 本山の西本願寺が仏具を借りに来ていたくらいですからね。きちんとしたお荘厳に囲まれて法務員としての仕事を務めていく。すると、なんとなく荘厳仏具の奥の深さを知っていくわけですね。で、たまに宇和島に帰省して、自坊のお荘厳を見てみると、もう、西宮とは全然違う。比較してみることで、荘厳を整えることの大切さが分かってきた。当時はまだ父が住職として健在でしたから、私が勝手にあれやこれやとするわけにはいかない。でもその中でも、できるところはよくしていこうということで、濱田さんに相談しました。

濱田 まずはじめに、常香盤や、巻障子など、部分的に修復や新調をさせていただきましたね。

櫻井住職 荘厳の大切さ、奥深さ、そして面白さを教えてくれたという点においても、濱田さんとのご縁はとてもありがたいです。

明源寺 櫻井雅之住職

- 西福寺さまには、他にも法務員の方々がおられたと思いますが、どなたも一様に仏具や荘厳への関心は高かったのですか?

濱田 具体的なことは分かりませんが、これだけの知識を自分のものとして持って帰られたのは、私が知る限りでは櫻井さんが一番でした。どなたも本格的なお荘厳の世界に触れて「ああ、すごいな」とは感じていたとは思いますが、それを自坊でも形にしていこうとは、なかなかなりませんよ。

櫻井住職 はじめのころは、いつも「西福寺と同じように」と仏具を注文してました(笑)

濱田 きっと「本物」を知ってしまったからなのでしょうね。仏具は決して安い買い物ではない。そのためにはご門徒さんや地域の方々の支えが必要となる。住職には大きな負担がのしかかりますし、すさまじいエネルギーを必要とします。でも櫻井さんは、それもふまえた上で、お荘厳の大切さに気付かれたのだと思います。

素心株式会社 濱田和光代表

荘厳から生じる信心

- お荘厳の大切さに気付く前とあとで、櫻井さんの中で、僧侶として変わったものはありますか?

櫻井住職 ものすごくありますね。仏さまのみ教えは、私たち僧侶がお取次ぎしていくのですが、その方法は法話やお説教などのことばだけではないということが分かりました。視覚、聴覚、嗅覚など、すべての感覚から仏さまを感じていただくことができる。お経の声も、お線香の香りも。そして、お荘厳は視覚で仏さまのありがたさを表しています。お参りの方が本堂に足を踏み入れて一番はじめに目にするのがお荘厳ですから、まずそこで「あっ!」と感じてもらいたいですよね、仏さまのはたらきを。

濱田 ご門徒さんに「お寺ってこういう場所なんですよ」と一言でお伝えするなら、どういうことばになりますか?

櫻井住職 「お念仏を申す場所」「仏さまの話を聴ける場所」ですね。そのお念仏や仏さまの話も、お荘厳が整うことで、より全身で感じられます。

濱田 目に見えない心を形が表し、その形が整うから心も整う。「信は荘厳なり」とはまさにそういうことですね。

櫻井住職 本堂をきれいにお荘厳することで、ご門徒の方に気持ちを込めてお参りしていただけます。もちろんそのために、伝統工芸の職人さんたちが兵庫や京都からわざわざ宇和島まで足を運ぶわけですから、どうしても費用的な負担もかかる。でも、明源寺のご門徒さまはみなさんすばらしい方々で、お寺という場所を大切にされ、お荘厳を整えることの意義を理解して下さっていた。ですから、このプロジェクトの話を持ち出したときも、ネガティブな反応はそんなにありませんでしたね。

急転直下で進んだ改修プロジェクト

- このたびの本堂改修事業は、急転直下で進んでいったと聞きました。その経緯を教えてもらえますか?

櫻井住職 そもそも建物の老朽化の問題はずっと懸念事項としてありました。床板はベコベコするし、後拝(来迎壁のうしろの空間)の狭さも長年ずっと気になっていました。そして何より宇和島は、南海トラフ地震が起きたときに甚大な被害が予想される地域です。いまのうちにできることをしておかなければならないという想いは、私だけでなく、ご門徒さんの中にもあったようです。

床下の耐震工事は、明源寺がすべき最優先事項だった。(「宮大工」編より)

櫻井住職 そうしていると、ある総代さんから本堂修復の話を持ちかけられました。きっとご自身の中でも総代を退任するまでに、お寺になんらかの貢献をしたいという想いを持たれていたのだと思います。「であるならば、いよいよ本堂改修に取り組むか。でもまずはじめに何をしたらいいのだろうか」と思案しながら、濱田さんに相談したら、まあ動きが速いんですよ(笑)

濱田 宇和島でも、どこへでも、すぐに駆け付けます(笑)

櫻井住職 本当に、すぐに来てくれるんで(笑)でも、これだけの大事業ですから、慎重に進めていこうとしたら全然前に進まなかったと思います。濱田さんのおかげですよ。

濱田 いやいや。

櫻井住職 本来であれば、まず事業計画を立てて、総代会を開いて、「こういう事業を、何年かけてやっていきます」と事業内容をご門徒さまにご理解してもらう。こうした一連の手順を踏むのが普通なんですけど。私自身ちょっと先走ってしまって、「やります!」「ご寄付を頂きたいです!」と、事後報告みたいな感じでお知らせする形になりました。だから本当に、急転直下です。

濱田 でも、その急転直下が成り立つというのは、やっぱりご住職や坊守さんのお力ですよ。普段からのご門徒さまとのお付き合い、コミュニケーションの中で、お寺の考えや想いを理解してもらえるいい関係が築けているからこそ、みなさんすぐに賛同なさったのだと思います。役員会に参加させていただいた時に、ご門徒さま方が、住職の言葉を重く受け止められていることを強く感じました。誰の力でもない、ご住職や坊守さんの力ですよ。

新しくなったお荘厳を目の前にして

- 実際に新しくなった本堂を目の前にして、どのような想いを抱かれていますか?

櫻井住職 やっぱり感無量ですよ。長年の念願が叶ったわけですからね。納入完了のたった2日後に報恩講法要を営み、そこでご門徒さんへのお披露目となりましたが、職人さんたちの手によるすばらしいお荘厳を目の当たりにして、ただただため息を漏らしておられましたね。そして「ここの漆はこうやって塗ったんだよ」「その上に金箔を押していったんだよ」と、私なりに職人さんのお仕事を説明すると、みなさんうんうんと頷きながら感心なさっていました。

濱田 本当にありがたいことです。

できたばかりのお荘厳を前にする櫻井住職とご門徒さま

櫻井住職 かくいう私も職人さんの手仕事には感心しきりで、ため息ばかり漏らしていましたからね。京仏具は分業制ですから、宮大工、塗師、金箔、彩色と、順番に職人さんがやって来られる。真剣なまなざし、たしかな手さばき、たったひとりで黙々と手を動かす姿に見とれて、何時間でもその場にいられました。

濱田 昼ごはんや晩ごはんを必ず坊守さんが用意して下さって、こんなにお世話をして下さるお寺はないと、職人たちも感激していました。本当にありがとうございます。

櫻井住職 私たちだけじゃないんです。たとえば漁師をされてるご門徒さんからも、「これ、職人さんに」とたくさんの魚を分けて下さったり、お寺全体で職人さんをお迎えしていた感じがありましたね。

職人たちに食事をふるまう坊守さん

濱田 職人たちも、ふだんひとりで黙々と仕事をしているからこそ、食事の時は熱っぽく話したりもしたんじゃないですか?

櫻井住職 いや、本当にそうなんですよね。彼らの伝統工芸に対する熱い想いを、現場でも、食事の席でも聴くことができて、本当にいい時間でしたね。ああ、何百年という長い時間をかけて受け継がれてきた伝統の技術を、いま目の前にいるこの人たちが承継しているのだと、実感しきりでした。

濱田 仏教の教えも、職人の技術も、ともに長く受け継がれてこそのものです。教えを説く住職と空間をかたち作る職人。双方がいてはじめてお寺という場所ができあがるのだなと、改めて気づかされました。

櫻井住職 まさに、信は荘厳なり、ですね。

濱田 お荘厳を新しくされて、改めてお寺をこういう場所にしたい、などの想いはありますか?

櫻井住職 さきほども言いましたが、お寺は「お念仏を申す場所」「仏さまの話を聴ける場所」です。立派なお荘厳を整えていただいたので、あとは私たちとご門徒さんとが一緒になって心安らぐ場所にして、そして、地域の方々にも気軽に足を運んでいただけるお寺を目指していきたいです。


5回にわたってお届けしたシリーズ「信は荘厳なり」。

仏さまの教えを説く僧侶と、その教えに触れる空間を作る職人。

いつの時代も、両者があってはじめて、宗教は世代を超えて受け継がれていきました。

素心はこれからも、宗教用具を扱うものとして仏教を支え、

こころねはこれからも、信と荘厳の交感する瞬間を、みなさまにお届けしていきます。


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▶「信は荘厳にあり」お寺の本堂改修プロジェクト完全密着取材
シリーズ1【仏具引き取り編】はこちらから!
シリーズ2【宮大工編】はこちらから!
シリーズ3【京都仏具工房編】はこちらから!
シリーズ4【完成編】はこちらから!


取材・撮影・文 玉川将人
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