こころね

「信は荘厳にあり」お寺の本堂改修プロジェクト完全密着取材【仏具引き取り編】

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お寺の本堂に足を踏み入れると
「あっ!」と私たちの目に飛び込んでくる
おごそかできらびやかなお荘厳。

きらきら輝く金箔や
きめ細かく描かれる彩色など
これらを見ているだけで
ここが、普段私たちがいる世界とは
異なる空間なのだと感じられます。

仏さまの世界を彩るのに欠かせない
寺院仏具の世界
いったいどのように作られているのでしょうか

愛媛県宇和島市
浄土真宗本願寺派・明源寺みょうげんじ
470年続くお寺の本堂と仏具の修復事業を
兵庫県の素心が請け負いました。

世代を超えて受け継がれるお寺にとって
一世一代の大プロジェクトを
ダイジェストでお届けします。

午前4時30分 出発

令和4年4月4日。春眠暁を覚えず。素心の施工部隊は、まだ太陽の登りきらず、東の空がほのかに明るくなり出した朝4時半に会社に集合。車で片道5時間の大遠征です。眠い目をこすりながら、瀬戸大橋を渡り、松山自動車道を西に走ります。

瀬戸大橋上から見渡す瀬戸内海の朝。

このたびの出張は1泊2日。素心の施工班に加えて、宮大工や職人さん、そしてメディア事業部の取材も含めて、総勢10名での現場入りです。

宇和島に到着したのは午前10時頃。こころね取材班がはじめて足を踏み入れる町。常夏感があふれています。

宇和島市の中心街

創建470年 人々が受け継いできた明源寺

宇和島市の明源寺は浄土真宗本願寺派のお寺。創建は1592年。まさに豊臣秀吉が朝鮮に兵を送り込んでいたころから現代にいたるまで、明源寺は地域の心の拠り所として、470年もの長い歳月、ずっと人々の暮らしを見守り続けているのです。

浄土真宗にとってのお寺とは、阿弥陀如来さまの教えを聴き、「南無阿弥陀仏」の念仏を称えるための道場。これまでご先祖様が受け継いできたお寺を、次代に引き継ぐための改修事業を任されたのだと思うと、われわれも身が引き締まる思いがします。

明源寺本堂

内陣のご荘厳

仏さまの心を伝えるお坊さん。その心を形にして表すのが仏具業者。「信は荘厳しょうごんにあり」と言いますが、まさに信心は荘厳に込められ、荘厳は信心を映し出します。

お寺と仏具店は一蓮托生。タッグを組んで本堂をおごそかな空間に整えることが、私たち仏具業者の使命です。

プロジェクトの3つの方針

ここで読者のみなさまに、明源寺本堂および荘厳改修プロジェクトの3つの方針をお伝えしておきます。

本堂建物の耐震施工

470年もの長い期間、建ち続けている本堂。あちこちで老朽化が見られます。建物すべてを解体するのではなく、床下や柱などの構造材を修繕、補強することで、より長く保つことのできるお寺にしていきます。兵庫県内の宮大工が、約6カ月かけて、たしかな仕事で本堂の耐震性、耐久性を向上させます。

また、床下や柱を改修するとなると、本堂内の仏具一式をすべて別の場所に動かさなければなりません。修復する仏具は京都の工房に持ち帰り、それ以外のものは裏堂(本堂の裏側にある部屋)に移して保管します。

本堂内の塗箔ぬりはく工事

「塗箔」とは業界特有の呼び名で、本堂内の構造材(柱、長押、框、壁など)に、直接漆を塗ったり、金箔を押したりする仕事のことです。塗箔をすることで、本堂内がよりおごそかに、そしてきらびやかになり、極楽浄土の世界が美しく広がります。漆塗り、金箔押し、金紙貼り、彩色画、金具打ちなど、さまざまな技法を凝らします。

建物に対して直接作業をするので、工程順に、それぞれの職人が泊まり込みで作業をします。

明源寺さまの場合、京都の伝統技法を有した職人が、塗師ぬし(漆塗りの職人)→金箔師→表具師(金紙貼りや彩色画)の順で、約半年かけて、塗箔を進めていきます。

仏具の新調と修復

本堂の施工と同時に、個別の仏具を引き取って、工房にて新調、または修復をします。

このたびは、阿弥陀如来さまのお仏像をご安置する「御宮殿おくうでん」と、御宮殿をお乗せする「須弥壇しゅみだん」を新調し、御宮殿前に置く「中尊前上卓ちゅうそんまえうわじょく」と「菱灯篭ひしどうろう」を持ち帰って修復します。

お寺の仏具はとても大きく、取り付け方も複雑で、ひとつ動かすだけでも大仕事です。そのため、「せっかく仏具を動かすのだから、この機会に新しいものを用意しよう、きれいに修復しよう」と考えるご住職も少なくないのです。

午前10時 作業スタート

午前10時。素心の施工班は宇和島市の明源寺さまに到着。5時間の長旅に一息つくまもなく、早速作業が始まります。

どんな現場でも、作業前には必ずミーティングを開いて段取りを確認します。車の中でも入念に打ち合わせをしていましたが、現場に立ってもう一度作業内容を確認。大切な仏具を動かすわけですから、失敗は許されません。

的確な指示を出す現場担当の素心・濱田社長

引り取り前、本堂の最後の姿をスマホに納める坊守ぼうもりさん(※坊守とはお寺の番人のこと。浄土真宗では伝統的に住職の妻を指します)

まずは、両脇の祖師そし(親鸞聖人)、御代ごだい(蓮如上人)の御厨子おずしの取り外しからかかります。

御厨子とは、仏像や掛軸など、礼拝の対象となる大切なものを納めるための仏具。写真は向かって左側、蓮如上人の御厨子。

取り外した仏具を慎重に包んでいきます。

金箔面を擦らないよう、布を当ててから扉を閉じます。

ビスやワイヤーなどで予想以上に固く固定されていたため、慎重に解体を進めます。

坊守さんも仏具包みのお手伝い。

屋根を下ろして…

胴(御厨子の本体)を下ろす。

裏面に施主名。お寺が長い時間をかけてたくさんの人に支えられていることが感じられます。

向かって右側、祖師前(親鸞聖人側)も同じようにとりかかります。

内陣ないじん(ご本尊がお祀りされている空間)と外陣げじん(お参りの方が座る手前の畳の部分)を分かつ「巻障子まきしょうじ」も、蝶番から慎重に外していきます。

建物と障子をつないでいる蝶番を外します。

ピンを抜く時に漆面を傷つけないよう慎重に金槌を打ちます。

慎重に運び出し、

傷がつかないよう、丁寧に養生します。

養生した仏具は本堂改修工事が終わるまで裏堂で保管します。限られたスペースの中、大きくて繊細な仏具を一点一点、丁寧に運び入れます。

明源寺様の迎門裏(内陣の裏側)は極端に狭い。布団に乗せてゆっくり引っ張りながら…

高さにも気を付けながら…

段差にも細心の注意を払い…

裏堂に納めていきます。

巻障子などの長尺のものは、

裏堂の中2階に納めます。

昼食。宇和島名物「鯛めし」

宇和島と言えば鯛めし。宇和島の鯛めしは、うまダレ醤油を絡めて食べます。

宇和島鯛めし。

 

旨い!

坊守さんから食後のコーヒーをいただきます。

午後1時 遷仏せんぶつ・仮安置

午後はいよいよ、須弥壇と御宮殿の移動に及びます。

お仏像などの礼拝対象物を、一時的に単なる造作物にすることを浄土真宗では「遷仏」と呼びます。遷仏法要は予め住職とご門徒の方々で営まれており、この日はご本尊様を別の場所に移動して仮安置します。一連の作業の中でも、特に神経を使う行程のうちの一つです。

ご本尊の納まる御宮殿は、本堂の中で最も大切な場所。

ご本尊を動かす前に、必ず塗香ずこう(塗り付けるお香)で掌を浄めます。

仏像本体から、慎重に外していきます。

ご本尊を預かる濱田社長。

数百年続くお寺の歴史の中でも、数度しかないであろう遷仏の瞬間。坊守さんが写真に納めます。

後光。

光背こうはい

台座。

御宮殿から出ていただいたご本尊様を、一時的に庫裏くり(住職家族が住む家)の仏間にご安置します。

本堂が新しくなるまで、こちらでお祀りします。

午後3時 御宮殿・須弥壇・上卓・菱灯篭の引取り

ご本尊の仮安置が無事に済み、いよいよ、御宮殿と須弥壇を引き取ります。まずはじめに、御宮殿を下ろします。

ご本尊のおられなくなった御宮殿。

まずは御宮殿の屋根を持ち上げます。

細かい部材が繊細に組み合わされている上に重量があるため、慎重な扱いが求められます。

屋根を持ち上げている間に、「胴」の部分を抜き取ります。

屋根を須弥壇の上に下ろし、ひと安心です。

御宮殿の次は、須弥壇を引き取ります。

しかし、これがなかなか動かない。なぜだ?

来迎柱に釘を打ち付けて須弥壇を固定していたからです。

釘を抜いて…

ようやく動いた須弥壇。

須弥壇を裏から見た図。普段は収納などに利用されています。

このたびは、新しい須弥壇を制作するため、これまでお世話になった須弥壇はその場で解体して…

トラックに積み込みます。

宮殿も丁寧に積み込んでいきます。

中尊前上卓ちゅうそんまえうわじょくは、工房にて修復します。

本堂の外に吊るされている菱灯篭も引き取って修復します。

午後4時 最終仕上げ

そのほかにもさまざまな仏具を大切に保管していきます。

御宮殿の内側にとりつける「戸帳とちょう」。

塗箔工事で汚すことがないよう、「柱掛灯篭はしらがけとうろう」。

襖。

すべてを運び出したあとの内陣。きれいに掃き浄めます。

本堂、がらんどう。

今日はここまで!みなさんおつかれまでした。

本堂をあとにする素心のスタッフたちを…

愛犬の小鉄もねぎらってくれました。

宿はお寺から徒歩3分の場所です。

2日目 午前9時 宮大工と表具師

このたびの本堂改修工事では、宮大工、塗師、金箔押師、絵師、表具師など、さまざまな職人が姫路や京都からやってきます。2日目は、宮大工と表具師を交えて入念な打ち合わせ。改修工事によって建物の間取りや寸法が変わるため、大工側、仏具側双方が念入りに確認をします。

伝統工芸の職人同士による打ち合わせ。静かな緊張感が走ります。

宮大工の枝常さんがベニヤ板に手書きした新しい本堂の図面。CADでは表せない凄みがある。

文字も、線も、全て手書き。

祖師(親鸞聖人)、御代(蓮如上人)の花灯枠。彫刻の仕様も手書きで再現しています。

表具師さんは、内陣の壁に金紙を貼ります。金紙とは、金箔を押した和紙のこと。きらびやかな極楽浄土のお荘厳のベースを担います。

既存の金紙を丁寧に剥離する。伝統製法で作られた金紙であれば、数十年使用したものであってもきれいに再利用できるとのこと。

剥離した金紙の表面。

裏面。

(おまけ篇)仏華のお供え&インタビュー

新しくご本尊をご安置した仏間に、仏華のお供えをします。浄土真宗では仏華の組み方に伝統的な形式があり、桜井住職はお花の組み方が大変お上手なんだとか。

近くのお花屋さんで花材を入手。

手慣れた手つきでどんどん進んでいきます。

真剣な目つきでお花を組んでいきます。

時間にしてわずか20分。見事な仏華ができあがりです。

庫裏のお内仏にお供えです。

仏華の世界は大変奥が深く、それだけのひとつの記事ができそうです。いつの日か、桜井住職のお話とともに、お届けしますので、こうご期待!

また、櫻井住職と素心の濱田社長との対談も急遽慣行。お寺の住職にとってのお荘厳とは。お寺と仏具店の関係についてもお話しいただきました。

こちらも別記事にして近日中に配信しますので、全国の寺院仏具ファンは、こうご期待ください。

正午 全行程終了

こうして、2日間にわたる仏具の引取り作業の全工程が終了しました。

これからは、宮大工による本堂改修工事が約6カ月かけて行われ、その後、塗箔工事、そして修繕仏具のお納め。最終的な完成は年末になることでしょう。

『こころね』では、引き続き、宮大工による修繕工事、塗師や金箔押師や表具師による塗箔工事、京都の工房で行われる仏具職人による手仕事、そして最終的な納品作業まで、お寺の本堂が新しくなっていく過程をダイジェストでお届けしていきます。

次回もどうぞ、お楽しみに!


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構成・撮影・文 玉川将人