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「信は荘厳にあり」お寺の本堂改修プロジェクト完全密着取材【4.完成編】
浄土真宗のお寺は
極楽浄土そのもの。
きらびやかで奥深い
宗教空間を作り出すのは
伝統技術を身につけた
職人たちの手仕事です。
シリーズでお届けしてきた
お寺の本堂改修プロジェクト
いよいよ完成編です。
本堂建物の塗箔彩色工事
宮大工による改修工事が済むと、本堂内の塗箔彩色工事へと工程が進みます。柱や梁や組み物などへの漆塗りや金箔押し、さらには彩色を施し、堂内を豪華に荘厳します。
漆塗りには二つの役割があります。
ひとつは、建物の部材を加飾保護するためのもの。そしてもうひとつが部材の上に押される金箔の接着剤としての役目。
いずれにせよ、本堂の荘厳は、塗師による漆塗りによって、そのできばえが左右されるとまで言われるとても大切な工程です。
新しく設えられた来迎柱への下地塗り。
金箔押しのための漆塗りが施される。
本堂内のさまざまな箇所にも漆塗りを施していく。
箔下漆が施された来迎柱に、金箔が押されていく。
斗組に彩色を施す。
来迎柱には金箔と巻下。斗や虹梁には極彩色が施される。琵琶板には雲の絵が金紙の上に描かれる。
来迎柱と天井をつなぐ斗組。建物の構造を支えつつ、極彩色で色鮮やかな世界を表現する。
後室迎門裏の金紙絵「宝相華唐草画」。
余間境(内陣と余間の間の垂れ壁)には「鳳凰と百鳥画」。框の漆黒と金箔が、そのきらびやかさを引き立てる。
仏具の納品、完成へ
令和4年12月9日。いよいよ仏具が納入され、新しい本堂が完成を迎えます。
須弥壇・御宮殿
まずは、お寺の本堂の最重要箇所である、御宮殿の設置です。
御宮殿とは、御本尊・阿弥陀如来さまをご安置するための場所。須弥壇の上に御宮殿を乗せ、その中に御本尊をご安置します。
御宮殿や須弥壇は、数ある荘厳仏具の中でもサイズが大きく、重量もあるため、人手をかけながら、慎重に作業を進めていきます。
まずは須弥壇。部材をひとつずつ運び入れる。
一段ずつ、順番に組んでいきます。
須弥壇を裏側から見た図。
最後に天板を載せる。
天板の後部。来迎柱(御宮殿の左右に立つ丸柱)との接着面は、柱の湾曲に合わせて寸分違わず刳り抜いてある。まさに職人の技である。
須弥壇設置完了。
須弥壇が無事に納まると、いよいよ御宮殿の設置に取りかかります。
「京都仏具工房編」で取り上げたときは木地の状態だったが…
木地、漆、金箔、金具の工程を経て、まばゆい屋根になった。
垂木の一本一本に、箔下漆が塗られ、金箔が押され、そして金具が打たれている。
地紋の魚子文様が唐草の美しさを引き立てる。まさに、微に入り細を穿つ京金具。
古代から瑞鳥として社寺建築のモチーフとなってきた鳳凰。御宮殿の中央に設えられる。
あまりにも美しい仕上がりに笑みをこぼす住職と坊守さん。
チェーンを取り付ける様子。3点で屋根を引っ張る。
天井裏の梁にチェーンを巻き付ける。
上と下で声を掛けながら、慎重に作業を進める。納入作業の中で最も緊張感が走る瞬間だ。
屋根が傾くことがないよう、4点を支える。
空中で屋根を一時的に吊り下げたままにして…
すばやく柱や板を入れて、胴を組んでいく。
明源寺さまで伝統的に祀られてきた仏像は御宮殿に対して相当大きい。そのため、先に仏像の台座を納める。
胴組みが整ったら、ゆっくりと屋根を下ろし、ホゾを穴にはめていく。
こうして屋根の設置が無事に完了した。
一連の光景を見守る住職と坊守さんも、胸をなでおろした模様。
親鸞聖人・蓮如上人御厨子
御宮殿と御厨子の転倒防止のための銅線を作る。電動ドリルドライバーで巻き付けることで強度が増す。
銅線は、御宮殿や御厨子の屋根と天井につなぐ。
御厨子も、屋根を持ち上げながら胴を納める。
扉を開けると、親鸞聖人の鏡板。
向かって左側には蓮如上人の絵像。
こうして、ご本尊である阿弥陀如来、そして親鸞聖人、蓮如上人のお荘厳が整いました。
御本尊
いよいよ、御本尊様を御宮殿にご安置します。
弊社の浜田から住職の手に、御本尊が手渡される。
御本尊を抱きかかえて…
慎重に、ご安置します。
寸分のズレを確認したのちに…
「なまんだぶつ」と念仏。そして合掌。
南無阿弥陀仏。
お寺にお参りのご門徒さまも、新しくなった御宮殿に納まる御本尊をありがたくお迎えします。
その他の仏具・お荘厳
りん灯や菊灯などの真鍮製の仏具は、事前にご門徒さんたちで「お磨き」をして下さっていた。
りん灯の組み立て
住職自ら設置位置を確認。
りん灯も重量のある仏具。吊り金具を天井裏の梁に絡めて固定する。
りん灯の設置完了。
内陣塗箔工事による漆の”塗厚”のため、既存の「火灯彫」が納まらない事態が発生。
ミリ単位の微調整も現場ですぐに対応する。
巻障子の設置
日もすっかり傾いてきたところで、すべての作業が完了です。
明源寺本堂塗箔工事
内陣全景
余間
御宮殿
須弥壇
中尊前上卓
作業完了当日、法事を迎えられたご門徒さまも、新しくなった本堂に感嘆されていました。
お寺は、ご門徒さまや地域の方々が集まって、仏さまの教えを聴く場所です。
伝統的な宗教空間を承継するために、たくさんの方々の期待や寄進が寄せられます。そして、その想いを形にするべく、極楽浄土を再現する伝統工芸職人たちのたしかな技術を集結していることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
信は荘厳にあり。あなたもまずは、ご縁のあるお寺に足を踏み入れてみて、本堂の匂い、雰囲気、伝統的な意匠や荘厳を身体全体で味わってみてください。そこで感じられる安らぎこそが、「信」への第一歩になるはずです。
合掌。南無阿弥陀仏。