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2023.06.02

須磨寺でお大師さんファンの女性3人に聞きました。「お大師さんってどんな人?」

須磨寺でお大師さんファンの女性3人に聞きました。「お大師さんってどんな人?」

 

2023年は
弘法大師空海が生まれて
1250年の記念となる年。

4月23日には
神戸市須磨区の
大本山・須磨寺にて
記念大法会が営まれました。

『こころね』編集部も
現地に急行!

たくさんの参詣者が
ひしめき合う中、
お大師さんファンの
女性3人組に巡り合い
こんな質問をしてみました。

あなたにとって
お大師さんってどんな人?

取材にご協力下さったお三方。左から、玉井愛さん、福田恵峰さん、三好由理さん。(大本山須磨寺本堂前にて)

私、お大師さんに会ったことあります。

四国八十八カ所霊場会公認先達せんだつをされているという福田恵峰さん(神戸市在住)。ご自身とお大師さんとの出会いやお遍路の魅力について、話を伺いました。

※先達とは、お遍路におけるコンダクター的な役割。ただの案内人ではなく、修行者としての心構えや礼拝の作法を伝える役割を担う。


祖父が亡くなった時に、四国遍路で使う古い納経帳が見つかりまして、もう100年ぐらい前のもの。それで、祖父がお大師さんへの信仰が深いことを知りました。本州と四国をつなぐ橋がない時代、神戸から鳴門まで船で渡り、歩き遍路を3周くらいしていたそうです。

私が42歳のころ、両親を立て続けに亡くしました。心にぽっかり穴が空いた時、京都の東寺でたまたま四国遍路の看板が目に入り、その時に祖父のことが頭をよぎり、お大師さまに願掛けをしたんです。「私を四国に連れて行って下さい」って。そして家に帰り、いつものように夕刊を広げたら、そこにお遍路のバスツアーの広告がありまして。まるで「バスでもいいから、まずはお試しで四国に行ってみては」とお大師さまに言われているようでした。

八十八箇所すべてのお寺にお参りして、最後の大窪寺に着いたら、何かこみ上げるものがあるだろうなと思ってましたけど、何も感じなかった。やっぱりバスじゃ駄目だったんです。連れてきてもらうのはダメ、自らの足で歩かなきゃいけないと思って、歩き遍路にトライしたら、なんとか一周できました。

当時は仕事もしていたので、土日の休みや年末年始などを使って、1年半くらいかけて一周しました。しばらく経つと、「今年顔を見ないけどどうした?」みたいな電話やお手紙をいただいたりして、その人たちにまた顔見せに行かなきゃいけないなという感じでぐるぐる周って、いまは21周です(笑)

お遍路をしてて分かるのは、作法を知らずに自己流でお参りする人が多いこと。そこから、お遍路を文化として広めて後世に繋げていかなきゃいけないなと考えるようになりました。

でも、資格を持ってない人間が偉そうに言っても多分受け入れてもらえないだろうなということで、いまは公認先達として四国遍路をさせてもらっています。

歩き遍路だからこそ、バスツアーでは得られないものをいただきました。それは、出会いです。

お寺って、いつでもずっとその場所にいて変わらないでいてくれるもの。でもお寺とお寺をつなぐ道中というのは、常に変化しているんです。時間帯によっても、季節によっても。朝方だったら学生たちが元気に学校に通っていて、夕方だったらおじいちゃんやおばあちゃんがベンチに座っている。

その瞬間瞬間でいろんな出会いがある。そしてそのつど巡り合う出会いひとつひとつが私にとっての財産です。私、神戸に知り合いはあまりいませんけど、四国にはたくさんいる(笑)あちこちに、私にとっての父、母、兄弟や姉妹がいるんです。

礼拝の時は、真剣なまなざしで、合掌に祈りを込める。

お大師さんはどんな人? そうですね。私ね、お大師さんに会ったことあるんですよ。

まだ真っ暗闇の早朝。はじめての山道を灯りもない中で歩いていたんです。すると向こうからおじさんがやって来て、「すみません。お寺に行くのに道はこっちで正しいですか?」と聞くと、「うん」とうなづいてくれました。お礼を言って、少し歩いて、ふと振り向くと、そこに誰もいない。そんな不思議なことがしょっちゅうあります。

もちろんそれは、私がその方をお大師さんだと思っているということなんですけど、困った時には、必ず何かの姿になって、私の前に現れて、助けて下さる。そういうことは、本当にたくさんあります。

先達をしていると、いろんな方と一緒に四国遍路をしますけど、大半の方が女性です。女性は元気です。はつらつとしている。男性の方はバスの中で小っちゃくなってます(笑)今日のお参りの方々を見ても、女性の方が多いですもんね。

やっぱり女性はね。どんなに平等だと言っても、なかなかむずかしくて、自分の人生を自分で切り開けないところがある。結婚する相手によって人生が決まってしまったり、家族の動きに寄せてしまって自分の時間がとれないとか。生きづらさゆえに、信仰心を持ちやすいのかもしれませんね。

今日は本当にいい一日でした。須磨寺さんにこれだけたくさんの人が来て、お大師さんとのご縁を結んでおられますから。事故もなく、無事に一日が終わる。それが一番だと思います。

私のお大師さんは、愛ちゃんです。

県外から参加の三好由理さん(愛媛県新居浜市在住)。かつて人間不信で苦しんでいたという三好さんは、自らをお遍路に連れ出してくれたという隣にいる親友を「私のお大師さん」と話します。


4年前に人間不信になって、首の手術もして、ものすごく辛い時期で、そんな時に入院してた私を、同じ職場の愛ちゃんが見舞いに来てくれたんです。

九州から四国に嫁いできましたけど、まだお遍路ができていないことをずっと心残りに思ってました。そしたら愛ちゃんが「退院したらお遍路しよう」と誘ってくれたんです。八十八箇所のお寺と別格二十霊場、合計108のお寺をお参りしました。

108は煩悩の数です。だから、108のお寺を周ると煩悩もなくなるのかなと思っていたら、全然なくならなくて(笑)

お参りの時には「納め札」に自分の名前を書いて奉納します。はじめは白いお札でも5周目からは色札に変わるというのを聞いて、「色札にするぞー」っと、そこからぐるぐる周って、いま8周目の途中です。

お大師さんのご縁のおかげで、すてきな友人に恵まれました。愛ちゃんには本当に救われてます。愛ちゃんのおかげで、お寺参りして、お経を唱えられるようになって、本当に心が救われました。

自分は必要ない人間なんだと思い込んでた時期があったんですけど、誰かに必要とされるよりも、こちらから人に関わって生きて行った方がいいんだなって、思います。今日の(小池)陽仁さんの法話にもありましたけど、外に出て人に会うことが大事なんですよね。

私の場合、愛ちゃんが外に連れ出してくれる。本当に明るくて、やさしくて。今朝も、須磨寺さんに行こうかどうか迷っていたら、「朝5時に迎えに行くけん、行こうぜ」って。恵峰さんみたいに、私はまだお大師さんにお会いできてないですけど、私にとってのお大師さんは、愛ちゃんですね。

小池副住職と記念撮影する三好さん。小池さんはこの日の法話の中で自身の遍路体験をもとに、「家の外に出るからこそ“出会い”が生まれる」と話した。

お遍路をするのは“呼ばれた”から

「お遍路行こ行こ」と明るい笑顔で友達を誘うという玉井愛さん(愛媛県新居浜市在住)。午前3時半に目覚めて、友人の三好さんとともに、愛媛県から車を走らせて須磨寺までやってきました。柴燈護摩が大好きで、この日も東の方角を司る降三世こうざんぜ明王に向けて放たれた矢と、東の色とされる緑の御幣をゲット。「今年の吉方は東じゃ~」と興奮冷めやらぬ中、お大師さまへの想いを聞かせてくれました。


3年か4年ぐらい前に、お遍路周りたいなあと思ってたんですけど、一緒に行く相手がいなくて。かといってひとりで周る勇気もなくて。私、ひとりでご飯屋さんにも入れない人なんです(笑)友達を誘ってみてもやんわり断られてて。

そんな時に三好さんにが「四国の心残りはお遍路なんよね」って言ってて、「おっ、見つけた!」って感じでした。「よし、行こう行こう」と、すぐに周り始めました。いまは、四国八十八カ所と、別格二十霊場と、三十六不動霊場を周っています。

お遍路を始めたくなったきっかけですか? え、分かんないです(笑)呼ばれたんかな? はい、呼ばれました(笑)

親も信仰心が深いわけではない。でも本家のおばあちゃんが使っていた錫杖が見つかって、「おおお。ばあちゃんも歩きよったんじゃ」とその時はじめて知って、いまは自分のお部屋に飾っています。それから、仏壇の中から、高野山からのはがきやらなんやらが色々出てきて。おとなしい、穏やかなおばあちゃんでしたけど、まさか四国遍路をしていただなんてと、驚きましたよ。隔世遺伝なんかな。

三好さんが「赤札(8周目以降の納め札)になるまで周りたい」って言ってた頃は、もう毎週末のように行って、とりあえず赤札になったんですよね。不動霊場も10周したらお不動さんの像がもらえて、それまでは毎回一緒に周ってましたね。

私ね、お護摩が好きなんですよ。柴燈護摩さいとうごまがある時にはそのお寺行って、そのあと周辺のお寺をお参りする。ご開帳がある、花手水がある、そういうのを聞きつけたら行って、んで周りのお寺もお参りする。そんな感じでお寺参りを楽しんでいます。

柴燈護摩とは、野外で行われる大規模な護摩法要。修験道や密教における伝統的修法。

法弓の儀。点火に先立ち、結界内を守るため四方に向けて矢が放たれる。矢は縁起物としてしばしば奪い合いになる。柴燈護摩に慣れている愛さんはベストポジションをキープして、奪い合うことなく矢をゲットした。

願いごと(=煩悩)の書かれた護摩木が供養の炎をより燃え盛らせる。まさに「煩悩即菩提」の世界。

お遍路は、周れば周るほど、もっと行きたくなる。どんどんお遍路文化が好きになります。これまで知らなかったこと、普通の生活では知りえないことを知ったり、気づけたり、お寺の方やお参りの方とお話をしたり。四国を周り出して、お遍路仲間がすごく増えました。

善通寺(四国霊場第75番札所)の蓮池にスマホ落としたときにズボンをまくり上げて拾ってくれたおじさま。あとで大変偉い行者さんということをSNSで知り、いまもお付き合いがあります。恵峰さんもお遍路仲間です。今日だって、待ち合わせてたわけじゃなくて、ここに来ると大体会えるんです(笑)

いまはSNSがあるから、四国で出会った方とそのあともつながることができる。お大師さんという方がおられて遍路文化ができて、お大師さまを慕っている人たち同士でご縁が広がる。お大師さんへの信仰ももちろんなんですけど、そこで出会った人とのつながりが楽しかったり、自分を豊かにしてくれます。

お大師さまを慕う人たちが、お大師さんのご縁にひきつけられてつながっていく。何よりも、筆者の私自身が須磨寺での彼女たちとの出会いに、心が満たされました。南無大師遍照金剛。


▶大本山須磨寺公式HPはこちらから

▶YouTubeチャンネル「須磨寺小池陽人の随想録」はこちらから


構成・文 玉川将人

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