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亡き友人が教えてくれた傾聴の力|”もう一度会いたいお坊さん”に会いに行く旅【関本和弘さん~後編】
法話のプロが
大切にしているのは
どう語るかだけでなく
どう聴くか。
話すことと
聴くことの
両方を研鑽してきた
関本和弘さん。
そのモチベーションは
亡き友人の存在と
小学生の友だちからの
心ないひと言だったと
話します。
H1法話グランプリ
初代チャンピオンの
僧侶としての歩みです。
※前編がまだの方はこちらから
「初代チャンピオンが語るH1法話グランプリの舞台裏」
ボランティアで痛感した聴くことの大切さ
ーー前編で、自殺防止のボランティア活動をされていると仰っていましたね。
2019年までですが、約10年ほど、大阪自殺防止センターの電話相談員をやっていました。わたしの担当は月に3回、担当時間は5時間。ひっきりなしに鳴る電話を取って、ひたすら話を聴きました。
ーーなぜそのような活動を始められたのですか?
学生時代の友人を自死で失くしたのがきっかけです。彼女が悩んでいる時、わたしがお坊さんということもあって、ああしたらいい、こうしたらいいと色々言いきかせていましたけど、「わたしのことばは、なにも染み込んでいかんかったんやなあ」と、喪ったあとに気づきました。お坊さんとしての無力感、お経の無力感を、痛烈に感じたのがスタートです。
ーーそうだったのですね。
センターのボランティアに応募したからと言って、いきなり電話相談員になれるわけじゃないんです。まずは研修期間があって、1年半かけて傾聴について徹底的に叩きこまれます。
ーー話の聴き方を、学ぶのですね。
はい。これまでずっと、坊さんは話をするもんだとばかり思っていました。それまでのわたしはいわゆる問題解決型で、自分の思ったことをズバズバ言う人間でした。問題解決以上に、聴くことこそが大切だというのは、まさに目からウロコでした。
ーー聴くことの大切さに気づかれた時、亡くなったご友人に対して申し訳なさのようなものが生まれたのでは?
ものすごくありましたね。「うつ病は気の持ちようや」とか、体育会系なことを言ってましたから。そう思う自分もいますけど、それは一旦横に置いておいて、電話相談に臨むわけです。こちらがしっかりと相手の声に耳を傾けることできちんと話をしてくれる、聴くことの力を実感しました。
ーーセンターには、1日にどれくらいの電話が寄せられるのですか?
一番多かったころは、24時間で500件くらいでした。その数を、その日の当番の相談員たった数人で対応するわけですから、受話器を取りたくても取れないというのが当たり前の状況です。
ーーひとりの方にどれくらいの時間を費やすのですか?
状況によりますけど、30分から1時間程度でしょうかね。小さい声で時間をかけて話す人、感情を爆発させて罵る人、号泣してことばにならない人、本当にさまざまなパターンがあります。中にはじっと黙っている無言の人もいますけど、そんな方であってもこちらから何かを説くことはしません。じっと受け止めます。
ーーとても大変なお仕事だと思います。
そうですね。ただ、傾聴するということの中に、お経の実践があると思っています。
ーーと言いますと?
仏教には「三業」という考え方があります。身体とことばと心の3つの働き「身業」「口業」「意業」のことで、これらを整えるサポートとして、傾聴があるのではないかと。
ーー興味深いです。もっとくわしく伺いたいです。
心(意業)の不調は、そのまま過食や拒食や不眠など、身体(身業)の不調になってしまいますよね。でも、話を聴いてくれる人がいるおかげで、心の不調を「口」を通じて話し(口業)、外に向かって発散できます。わたしたちお坊さんが安心して話を聴ける相手になることが、その人の三業を整える手助けとなるんです。
ーー話をだれかに聴いてもらうだけで、その方の救いになるのですね。
しかも、お寺は仏さまに見守られる空間ですから、ここでなら安心して話ができると思ってもらえる場所にしていきたいですね。
話すことと、聴くことと
ーーH1法話グランプリのチャンピオンにまでなられた、いわば話しのプロフェッショナルである関本さんが、一方で、長く傾聴の取り組みをされているというのは、ものすごく興味深いお話です。話すことと聴くことは、関本さんの中ではワンセットになっているように思えます。
お寺に生まれて、祖父や父の姿を見ていて、お檀家さん参りだけをするルーティンワークが、若い頃の生意気な私には耐えられなかったのでしょうね。だから、法話にしろ、傾聴にしろ、お寺を飛び出して、宗派を超えて学んでいったのだと思います。
ーー電話相談員を2019年で辞められたということですが、それはどうしてですか?
いくつか理由がありますが、自殺防止に関するさまざまな取り組みのおかげで、2019年の段階で自殺者数が減少していたというのがあります。それと、いまの若い子たちは、電話をしないんです。
ーーそうなんですね。
はい。その上で、若年層の自殺者数は増えているという実態がありました。電話では彼らにアプローチできない。どうすればいいかと考えていた矢先に、保護司にならないかとの相談をいただきました。そこで出会う若い人たちがどんなことを考えているのか知りたくなったのもあり、電話相談員を辞めて、いまは寝屋川市の保護司の活動をしています。
ーー具体的にどんなことをしているのですか?
犯罪や非行をしてしまった若者の立ち直り支援です。特に、仮出所している子たちを満期出所までの期間、面談などを通じて見守っています。
ーー若者たちとの接し方は?
同じですよ。特にこちらからあれこれ説教臭いことは言わない。とにかく話を聴くことです。お寺に来てもらうこともありますし、わたしが彼らの家に出向いて、生活状況を見させてもらうこともあります。
ーー犯罪に走る人たちの傾向ってありますか?
うーん、そうですね。とにかく家庭環境がぐっちゃぐちゃなんですよね。お母さんが蒸発していないとか、お父さんが頻繁に酒飲んで暴れるとか、そもそも両親のことを知らずに施設で育った子とか…。
ーー前編で、「親孝行や先祖供養を説いても響かない人もいる」と仰ってましたが、まさにこうした人たちがそれに該当するのですか?
そうですね。「なんで親や先祖を敬う必要があるのか? 敬えるような人たちじゃないし、逆にあんた、オレと同じ立場だったらどう思う?」なんて聞かれたら、ことばを失ってしまいますよね。そんな彼らを受け入れて、安心してもらえる場がお寺であり、わたしたち僧侶の仕事だと思っています。
「死んで儲かる仕事」と言われて
ーーお寺の副住職としての仕事に加えて、布教師、傾聴ボランティア、保護司と、さまざまな活動に深くかかわっておられます。そのモチベーションはどこからなのですか?
純粋に、意味を知りたいんでしょうね。
ーー意味?
はい。大谷徹奘さんの法話も、なんであんなにイキイキとした法話ができるのか。傾聴ボランティアも、どうして友人は死んでしまったのか、自死をしようとしている人はどんなことを考えているのだろうか。保護司も、いまの若い子たちが何を考えているのだろうか。こうした問いに対する答えを、現場感覚で知りたいんでしょうね。
ーーモチベーションは、探求心だと?
はい。もっと突き詰めると、お経の意味、お経の力への探求です。2500年も説かれ続けているお経にはいったいどんな意味が、どんな力があるのだろうか。ただ呪文のように唱えるだけでなく、お釈迦さまが残されたさまざまなことばの中に、どんな思いが込められているのかを、自分のこととして知りたいんです。
ーーそれはやはり、自死で亡くされたご友人のために?
それもありますが、もうひとつの理由があるなあと、35歳のころに気づきました。
ーーそれは、どんなことですか?
小学生の時に、ある友だちから冗談で「お前、人が死んだら儲かるんやろ」と言われました。何気ない一言だったんですけど、自分自身のことを全否定された感じがしたんですね。そして、その時のわたしは、そのことばに対して、怒るでも、悲しむでもなく、その感情に蓋をしたんです。記憶の中で、そのことばをなかったことにしてしまったんです。
ーーそうでしたか。
そのことが、知らず知らずのうちにわたしをお寺嫌いにさせていきました。お坊さんになんてなりたくなかったんです。高校もキリスト教系の学校に行きましたし、大学でもテクノロジーを専攻しました。でも、どうしてもお寺に帰って来なければならなくなり、それならばと、お寺の法務に加えて、自殺防止だったり、法話だったりと、自分なりのやり方でいろいろな経験を積み上げていきました。
ーー僧侶として生きていくには、意味みたいなものを掴まないといけない。そんな想いがあったのでしょうか。
きっとそうでないと自分自身が耐えられなかったのでしょうね。でも、そうしたことをずっとやってるうちに、だんだんと、僧侶であることの意味や自分の存在価値が見出されてくる。すると、蓋をした記憶っていうのが徐々に融解されていきました。ある時ふと、友だちから言われた「人が死んだら儲かるんやろ」ということばがよみがえってきて、そういえばそんなことがあったなと、そんなことを思い出した時、そのことばにきちんと向き合える自分がいました。
ーーいまなら、そのことばにどうお答えになりますか?
悲しみに寄り添うことって、人間にとってものすごく必要なことなんだよと。そしてそれができるのがお坊さんの仕事なんだよと。
お坊さんに直接会ってみてほしい
ーー話すことと聴くことを追求し、たくさんの方々の苦しみに向き合ってきた関本さん。最後に、ご縁があってこの記事にたどりついた読者の方に、ひと言いただきたいです。
やっぱりお坊さんに直接会ってほしいなと思いますね。前編でも話しましたが、お坊さんは、日常的にお経を読んで、お釈迦さまの教えに触れて、そしていろんな人の悩みや苦しみに向き合っていますから、普通にはない物の見方を持っていると思います。それが、目の前の悩みや苦しみに捉われているあなたにとっての、ひとつの救いになるかもしれません。
ーーその出会いの場の一つが、H1法話グランプリですね。
そうですね。それに加えて、最近ではインターネットでも、お坊さんと出会える接点がたくさんあります。まずはこうした場を入り口にしてみてもらいたいです。
ーー入り口はたくさんある。あとはどのようにご縁を結ぶかですね。
はい。いまは大丈夫でも、生きているといつか必ず辛いことや苦しいことが起こります。そんな時にこそ、「あっ、もう一度会いたいな」と思わせてくれるお坊さんがきっと役に立つはずです。そのご縁の種は、H1法話グランプリにも、あなたのまわりにも、すでに転がっているんじゃないかと思います。
▶H1法話グランプリ公式サイトはこちらから。
▶関本さんのお寺・大念寺のX(旧Twitter)はこちらから。
▶素心『こころね』による2021年大会レポート記事
『762組もの仏縁がつながる日-「H1法話グランプリ2021」現地レポート』
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取材・撮影・文 玉川将人