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2023.11.25

年商100億円の”成功”を手放し、インドで出家するまで|『小野龍光トークライブ ㏌姫路』全文公開(前編)

年商100億円の”成功”を手放し、インドで出家するまで|『小野龍光トークライブ ㏌姫路』全文公開(前編)

 

2022年10月に
インド仏教最高指導者
佐々井秀嶺さんのもとで
出家得度した
小野龍光さん。

そして約1年後
なんと、素心姫路店に
お越しいただき
出家得度するまでの
歩みをたっぷり
語っていただきました。

ITベンチャーの世界で
投資家、起業家として活躍し
ウルトラマラソンでは
世界一をも獲られた龍光さん。

どうしてそのような”成功”を手放し
出家の道を選んだのでしょうか。

成功って、なに?
承認欲求はキリがない。

2023年9月10日。
土曜日の午後に行われた
『小野龍光トークライブ in 姫路』

その全文、1万字を
前後半に渡って
お届けいたします。

素心とのご縁

今日はみなさん、土曜日のこんなすばらしい天気のいい日に、ただのハゲ坊主の戯言を聞きにお集まりいただき、ありがとうございます。

実は玉川さん(素心メディア事業部)とは、佐々井秀嶺上人の日本行脚のお供をしていた際に、岡山市の長泉寺に玉川さんがお参りされた時からのご縁です。

2023年6月10日(土)岡山市長泉寺にて。参詣者の話を一人ずつ丁寧に耳を傾ける佐々井秀嶺さんと、お供をする龍光さん。

その後、わたしが四国遍路をしている時に、せっかちなわたしを掴まえようと、雨の中、西日本最高峰の石鎚山の山頂で待ち構えて下さっていて、大変に感動いたしました。そうして今日このようなご縁をいただきましたこと、深く感謝申し上げます。

わたしは、今日から一週間ほど前に、42日間かけて歩いた四国遍路を終えました。この中での自分なりのテーマが「使命」ということばでした。なぜ「使命」について考えたか。それは、わたしの師匠である佐々井秀嶺上人が、日本行脚の時に、しきりに日本の方々に問いかけていたことばなんです。

つまり、「何に命を使うのか」という問いかけです。

まだ僧侶になったばかりの人間ですので、偉そうなことを言える人間ではないという前提で、わたしなりに感じること、考えることを聞いていただけたらと思います。

石鎚山山頂にて

前世・小野裕史の苦しみ

昨年10月に縁あってインドで得度させていただいたわけですけれど、得度ということばを辞書で引いてみると「出家する」「三途の川を渡ってあの世へ行く」とあります。

もともとは、小野裕史という人間を48年間生きてきたのですが、得度した瞬間にその人間は死んで亡くなりました。いまは何者でもない、0歳児です。

「どうして得度したのですか?」とよく聞かれます。わたしは自分なりのことばとして得度前のことを「前世」と呼んでいますが、前世ではさまざまなものを目指してきました。

幼いころは学者、学生時代はエンジニア、大人になってからは起業家や投資家。いわゆるITベンチャーを立ち上げたものの、「すごいですね」「成功されてますね」と言われるのが苦しくてしょうがなかったというのが本心です。求められるがままにメディアに出たものの、本人としては1ミリも成功している実感がないんですから。成功していないという自覚と、一方で成功者として見られたいという承認欲求、このはざまにいることが前世での一番の苦しみでした。

もちろん、はじめは「新しい事業、新しい技術でだれかを幸せにしたい」という純粋な想いでやっていたんですけれども、気が付けば、結果を認めてもらうために数字を追い求めていました。結果が全て。売り上げが全て。株価が全て。しかもその結果を早く出した方が勝ちなんだと自らに言い聞かせて、その考え方に縛られて、囚われていました。

SNSの「いいね」の数やフォロワー数もそうですよね。多ければ多いほどいいと思いがちですが、目指しているところに到達するとそれが当たり前になって、さらに上を目指さないといけない気持ちになる。キリがないんです。それに、他人のイケてる姿を自分と比較して、自分は全然イケてないなと不安に感じてしまうことだってありますよね。

期待した結果が出せないと、途端に自分が無能力者のように思えて、生産性を上げるためにどんどん効率を求めてしまう。すると時間がなくなって忙しくなる。「忙しい」という字は「心を亡くす」と書きますが、自分の中の穏やかさや優しさが失われて、周りの社員やお客さんに対して心無いことを発してしまっている。そんな自分が大嫌いで、殺してしまいたいと思うほどでした。

永遠に終わらない数字を求め続ける世界。しかもどこまでいっても成功を感じられない。このふたつがつきまとう競争社会から一度離れてしまわないと、自分が壊れそうだ。

そういった自分の中での苦しみを経て、昨年の8月に会社を辞める決断をしました。

JQ QUESTクエスト。出家して世界を行く

この時点では全くもって、まさか自分がこんなハゲ坊主になるとは1ミリも思っていませんでした。

同じ時期にたまたま高橋くんという友人からメッセージが届きました。そこには予想だにしていなかったお坊さん姿の彼の画像。添えられたことばはただひと言。「得度したったw」

とてもカジュアルな出家宣言。しかもそこに添付された画像は、京都の仁和寺、空海様の絵像の前で撮影されているんです。

インド旅は、親友・高橋淨久さんの得度から始まった(画像提供・小野龍光さん)

彼はお寺の人間でもなければ、仏教の話なんてしたこともありません。信じられないと思いますが、得度の理由は「おもしろそうだから」。もともと突飛なことをしてしまう人間ではあるのですが、こんなにカジュアルに出家できてしまうんだという事実が衝撃でした。

そして彼が言っていたのが、「お坊さんになったら世界中の人と友だちになれそう、あはは」。

これはおもしろいなと。ちょうどぼくも会社を辞めて無職になって、時間だけはたくさんある。このカジュアルな僧侶・高橋浄久という人物をカメラに収めたらおもしろい記録動画が残せるんじゃないかということで、一緒に世界を旅することが決まりました。

すると、インドでビジネスをしている共通の友人が「出家したのなら、仏教発祥の地であるインドにおいで」と言ってくれて、そうやってインド行きが決まったのです。

カジュアルなノリで始まったインド旅の様子は、YouTubeで配信されている(全33回)。やがてふたりは、佐々井秀嶺さんに会い、小野裕史は小野龍光となる。(画像提供・小野龍光さん)

インドって、よく「過去、現在、未来がすべてごちゃ混ぜになっている」と表現されます。日本よりもはるかに進んだIT大国でもある一方で、日本よりも遥かに汚れていて、路上生活の方もたくさんいらっしゃいます。

深夜バスでは2人席に5人くらいが座るし、窓ガラスがないから車内に雨が吹き込んでくる、こんなのは当たり前なんですね。電車の乗降口にドアがないから乗り降りも自由、16時間ずっと床の上ということもありましたし、車やリキシャ(オート三輪のタクシー)は平然と逆走します。

インドにおける乗り物のカオスは、『JQ QUEST』序盤の見どころでもある。(画像提供・小野龍光さん)

旅の中ではいろんな経験をしました。ガンジス川で沐浴もしたし、旅の途中で知り合ったインド人の結婚式に招待されたりと。

カジュアルなロードムービーは、やがて、ひとりの男の人生の岐路を捉えたヒューマンドキュメンタリーへとなっていく。(画像・小野龍光さん)

そんなことをずーっとしながら、約1か月、13都市を2万キロぐらい、高橋くんとご縁に任せるままに旅を進めていったのです。

リアルなインドと仏教再興運動

インドの中央部に、旅行者がほとんど行くことのないナグプールという街があります。ここで出会ったのが、佐々井秀嶺上人です。

岡山県出身、今年で御年89歳。インドに渡って56年目になるそうです。インド仏教の信者は現在1億5000万人とも言われますが、その最高指導者となるお方です。

(画像提供・小野龍光さん)

佐々井上人は55年間、インドのカースト制度で差別を受けている人たちをひたすら救済し続けています。

カースト制度は4階級あると言われていますが、実はその下にダリットと呼ばれる不可触民(触れると穢れるとされる人々のこと)階級があり、未だにインドの人口の2割ほどいるのではと言われています。いまのインドの憲法では、カースト制度による差別は撤廃されていますが、ヒンドゥー教とともに3千年も続いてきている社会制度ですから、差別の温床が未だに根強く残っているのが実情です。

その差別は大変壮絶で、人間として見なされない、畜生未満という扱いです。ダリットの人が夜中に外を歩いていただけで、警察に捕まってしまう。犯罪を犯すかもしれないという理不尽な理由で硫酸を目に流しこまれる。暴行された女性の遺体が全裸で放置されていても、穢れているからという理由でだれも触らない。

しかもカースト制度は世襲制ですから、親からの職業を受け継がなければなりません。たとえば、トイレの肥溜め掃除という仕事が実際にあるんですが、そこで生まれた人は、どんなにがんばっても、能力があったとしても、一生その仕事をしなければならない。日本では当たり前の職業選択の自由すらないというのが、未だに続くインドの一面です。

そうしたダリットたちを救済しようと立ち上がったのがアンベードカル博士(1891-1956)です。日本ではほとんど知られていないお方ですが、インドではあのガンディーさんよりもはるかにたくさんの銅像が建てられている偉人です。

アンベードカル博士も、ダリットとして生まれて、差別を受けて育ったにも関わらず、一生懸命に勉強をされて、最終的に法務大臣になられたお方です。現在のインド憲法をほぼ1人で書き上げ、「インド憲法の父」とも呼ばれています。

と同時に、博士はインドにおいて仏教再興運動を始めた方でもあります。さまざまな宗教を研究した結果、仏教こそが最も生きとし生けるものにフラットな、平等で差別のない宗教であることを知り、そして約50万人の人々とともに、ヒンドゥー教から仏教へと改宗されたのです。

「きみたちも一緒に生まれ変わらないか。勇気を持って、仏教に改宗しないか。カースト制度を飛び出すことで、職業選択の自由を得られ、生きるチャンスを広げていけるんだ」ということを人々に問いかけられた約2か月後に、お亡くなりになりました。

ここで佐々井上人に話を戻しますと、佐々井さんはアンベードカル博士が亡くなった約10年後に、博士のこともよく知らずに、ふらりとインドに訪れます。そこではじめて、インドの壮絶な差別の実態というのを知って、仏教を通して人々に生きる権利を伝えていく活動を始めます。いわば、アンベードカル博士の意志を受け継いで、仏教再興運動を展開していくのです。

佐々井秀嶺の衝撃

わたしたちはきわめてカジュアルに、

「佐々井秀嶺さんは生きているんだね」
「ワンチャン、会えたら嬉しいね」

…といった軽いノリでインドを旅していました。すると、とあるご縁から佐々井さんの電話番号をゲットでき、ダメ元で電話してみたら、「来なさい」とおっしゃる。

ヒンドゥー教の国ですから、新しい宗教活動を行う佐々井さんを良く思わない人もたくさんいます。実際に何度か暗殺の危機にもあっていて、いつ命を奪われてもおかしくないんですが、佐々井さんはどんな人からの電話でも必ず出るんですね。

『【JQ QUEST⑮】アポ無しなのに 今すぐ会えちゃう!?』

そして実際に佐々井さんのおられるナグプールという街に行ってみて、まず感動したのは、他のどのインドの街と見比べても、ものすごくきれいなことです。

ゴミは落ちてない。全員が立ち止まって目を見てあいさつをする。タクシーの運転手さんもわざわざ車から降りて「ジャイビーム」。「ジャイビーム」とは仏教徒同士のあいさつのことばです。掃除とあいさつが行き届いているんです。

「なんなんだ。この道徳心にあふれた、信心深い街は…」

聞くところによると、佐々井上人が来られたころのナグプールは、ほとんどの人たちが差別を受けていて、治安も悪く、教育レベルも低かったそうです。

その中で佐々井上人は、たくさんの人たちに、学ぶこと、職を得ることの大切さを説き、それが代々続き、今ではインドの中でもトップクラスの識字率の教育水準になっているそうです。

実際に街を歩いてると、わたしと高橋くんにですね、「おまえ日本人か。オレはササイのおかげでちゃんと勉強できて、いまはアメリカのIT企業で働けているんだ」と話しかけてきてくれる、こんな話がゴロゴロ転がってるような街なんですね。

わたしは、前世でITサービスや会社をたくさん作って、世の中をよくしようと思ってきました。でも、佐々井上人は、身体一つで、そして信仰というものを通じて、多くの人たちの生活を豊かにしている。そのことにとても大きなショックを受けました。これがインドの旅の中での一番の衝撃でした。

お前、坊主になれよ

そんな佐々井さんにですね、「お前、坊主になれよ」とずっと言われるんです。動画を見直すと13回くらい言われてました。

ダライ・ラマ法王が直接会いに来るようなお方です。そんなお方から「坊主になれよ」と言われているわけです。これは運命じゃないかと、旅行中に心が揺らぎますよね。

とはいえ、そんな簡単に出家してしまっていいのだろうかと、みなさんもきっとお思いでしょう。でも結果的に、佐々井上人に出会ってから2週間後には、わたしは頭を丸めて、得度することとなります。

というのも、一緒に旅をしている仲間たちが次々と頭を丸めて行くんです。インドでビジネスを成功させている日本人の女性・繁田奈歩ちゃんも得度して頭を丸めちゃう。ヒンドゥー教徒でバラモン階級のインド人の友人・ロミくんも、ガンジス河についた途端に頭を丸め始める。気が付いたら4人のメンバーの内、3人が丸坊主で、わたしだけ髪があるという状況でした。

『【JQ QUEST⑯】えっ!? 😳 インド仏教🇮🇳1.5億人トップが『おまえもボウズになれ‼』』

極めつけは、一万人近くの人が集まる年に一度の「大改宗祭」。これが、わたしたちがインドにいる間に行われるというんです。

内堀も埋められて、詰んでるぞと。これはもう行くしかないでしょう。再びナグプールに戻った時には、もう心は晴れ渡った気持ちでした。

こうして、髪を落とし、衣をいただき、佐々井上人に直々に「龍光」という名前を授かったのです。

『【JQ QUEST㉜】投資家が社長を辞めてインドで出家 ⁉』

ここまでが、小野裕史が死んでから、小野龍光が生まれるまでの大まかなお話です。

旅に出てからインドを離れるまでの道中はYouTubeの『JQ QUEST』で観ることができます。ちょっと長い動画なんですけれども、興味がある方はぜひとも検索して、ご視聴してみてください。

(後編へ続く)
一度死んだこの命を何に使うのか|『小野龍光トークライブ ㏌姫路』全文公開(後編)


龍光ポスト
龍光さんへのメッセージ、今後の予定、Podcastはすべてこちらにまとめられています。

YouTube動画『JQ QUEST JQ出家して世界を行く〜行き先はアナタが決める🕹️』
高橋淨久さんと小野龍光さんによるインド旅ムービー。全33回。旅の始まりから、龍光さん出家の瞬間までを観ることができます。


企画・撮影・文 玉川将人

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