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2023.12.01

H1法話グランプリのもうひとつの見どころ。審査員について熱く語ります!

H1法話グランプリのもうひとつの見どころ。審査員について熱く語ります!

H1法話グランプリの
欠かせない見どころが
審査員の先生方による
講評です。

普段テレビなどでしか
観ることのできない
豪華な面々。

あの先生は
なんて言うのかな。
この先生は
どうジャッジするのかな。
…などと胸をわくわくさせるのも
H1の楽しみ方のひとつです。

この記事では
H1における
審査員の先生方が担う
役割とその意味に
迫ってみようと思います。

また、筆者が個人的に
2021年大会のハイライトだ
と感じたのが
伝統的な「絵解き」を披露した
畔柳優世くろやなぎゆうせさんへの講評。

舞台上で
何を感じていたのか
ご本人にもじっくりと
お話を伺いました。

2021年大会の講評をふりかえる

H1法話グランプリの規模が大きく飛躍した2021年大会。会場は1500人収容の「なら100年会館」へ、そして審査員には豪華な面々が並び、イベントの格が一段と高まりました。

まずは、2021年大会における登壇者と審査員のやりとりの中で、印象的だったシーンをふりかえりましょう。

筆者の脳裏に真っ先に思い出されるのが、いとうせいこうさんによる舟川智也さん(浄土真宗本願寺派・両徳寺)への講評です。いとうさんは、マイクを手にして開口一番、「真打登場」の四字で、舟川さんの法話を讃えます。

ここで秀逸だったのは「真打」ということばを用いたこと。

そのクオリティの高さを、伝統芸能の世界で用いられる「真打」ということばで表現したことにより、舟川さんの法話もまた、落語や講談などと同様に、浄土真宗という伝統の中で引き継がれていることを会場全体に示しました。

いとうせいこうさんの鋭い感性とインテリジェンスが見えた瞬間でした。

いとうせいこうさんと舟川智也さん

そして、僧侶でありながら落語家としても活躍されているつゆ団姫まるこさんは、自身も噺家だからこそ、登壇者の想いや意図をくみ取り、聴衆に向けて分かりやすく解説しました。

たとえば、田中宣照さん(真言宗・西室院)への講評の中では、限られた時間の中で丁寧に自己紹介をする田中さんの「品格」を讃えます。これは、法話の時間が10分しかないことのきびしさが分かるからこそのコメントだと言えるでしょう。

また、破石晋照はせきしんしょうさん(天台宗・金剛院)と南洞法玲なんとうほうれいさん(天台宗・壽徳院)が繰り広げた念仏(南無阿弥陀仏)と題目(南無妙法蓮華経)の競い合いが、じつは狂言の『宗論』のパロディであることを即座に示したことで、聴衆の理解をグッと深めました。

露の団姫さん、破石晋照さん、南洞法玲さん。三者とも天台宗の僧侶である。

このように、審査員の講評が入ることで、その法話が説くところの“こころ”をより深く味わうことができます。

釋徹宗さんの役割

そして圧巻だったのが釋徹宗さんの講評です。

審査員長を務められる釋徹宗さんだけは、すべての登壇者に向けて講評を述べなければならないのですが、それら一つひとつの指摘が、的を射て、鋭い。

「花が咲き誇るかどうかは根っこの有無による」と話した関本和弘さん(融通念仏宗・大念寺)には「切り花についてはどう思うか」と、法話の中で触れることのなかった点に切り込んでいきます。

親子の介護を通じて薬師如来の慈悲を説いた中田定慧じょうけいさん(華厳宗・隔夜寺)には、「家族形態が多様化する現代において、介護の話をひとつの家族に限定しない方がいい」と指摘しました。

2023年大会でも審査員長を務める釋徹宗さん

一見きびしく感じられる釋徹宗さんの講評。しかし、「あれは、やさしさなんです」と話すのは、2023年大会の実行委員長・森圭介さん(浄土宗・阿弥陀寺)です。森さんは『こころね』のインタビュー記事の中で、釋徹宗さんの講評について、次のように話しました。

ぼくたちが一番避けたいのは、一生懸命話した法話によって、お坊さんたちが損をしたり、叩かれたりすること。だって、覚悟と勇気をもってエントリーして下さっているわけですから、ぼくらはそんなお坊さんたちを絶対に守らなければならない。そこで釋先生のきびしい講評なんですけど、あれって、突っ込まれたり叩かれたりする可能性を、釋先生自らが先んじて、全部つぶしていかれているようなものなんです。

法話をする側も、審査をする側も、一回限りの真剣勝負。その緊張感の中で、宗派の特徴、法話の内容などを鑑みながら、やさしさを持って講評の弁を放つ釋徹宗さんの凄みを思い知らされます。

伝統と現代のせめぎあい。2021年大会のハイライト

2021年大会のハイライトは、畔柳優世くろやなぎゆうせさん(養寿寺・浄土宗西山深草派)に向けられた、後藤正文さん(ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION)と釋徹宗さんによる講評と、それに対する畔柳さんの回答の場面ではなかったでしょうか。H1法話グランプリという大会そのものの意義が凝縮された瞬間だったように思います。

畔柳さんが披露したのは、伝統的に受け継がれている「絵解き」。古代インドにまで起源を遡ることができる絵解きとは、仏教説話の一場面が描かれた掛け軸を吊るし、その絵の解説を通して仏さまの教えを説くというものです。

H1の舞台上で畔柳さんが吊るした掛軸は『地獄絵』でした。前世で悪事をはたらくと、閻魔大王の裁きで地獄に落ちてしまうものの、「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えることで極楽浄土に往生できるという、日本人ならだれもが知っている言わずもがなのお話。

みなさまの目の前に広がるのが六道の辻。こっちに行ったら極楽、あっちに行ったら地獄。その行く末を決めるのがこの方。閻魔大王さまでございます。(畔柳さんの法話より)

まずは短いお経とお念仏。そして次々に繰り出される講談をほうふつとさせる気っ風のよい語り口。腹の底から放たれる野太い声が会場中に響き渡ります。時おり挟みこむ笑い、ダイナミックに振りかざす指し棒、全身から放たれるエネルギー。

「この迫力は、すごいぞ…」

一眼レフカメラのレンズ越しに感じた、筆者の素直な感想でした。

わたくしたちを地獄に落とさぬ仏さまがおられます。その仏さまとは阿弥陀如来さま。(畔柳さんの法話より)

審査員席の後藤さんも同じように感じていたのではないでしょうか。マイクを手にした後藤さんは、畔柳さんの絵解き法話を「完成された芸のようだ」と表現したのです。

そして、その伝統的な法話の完成度の高さが、後藤さんの中に次のような素朴な疑問を湧き上がらせました。

「現代を生きるぼくたちは、アニメやゲームなどでもっと残酷な光景を見せられている。そんな中で、地獄というものをどのように想像し、道徳に結びつければいいのだろうか」

後藤さんの講評を壇上で聞く畔柳さん

後藤さんのこのコメントは、H1法話グランプリの大会意義を射抜いたものだったように思います。

というのも、H1法話グランプリの目的の一つは、「仏教のすそ野を広げること」。2500年の伝統の中で積み上げられてきた仏教をどう現代人に伝えていくか、という問題意識からスタートしているからです。

伝統を受け継ぐ畔柳さんと、現代人の感性を代弁した後藤さんのせめぎあいの中に、H1法話グランプリの大会意義が凝縮されていたと、筆者は直感しました。

それに続いて、釋徹宗さんは畔柳さんに次のように問いかけます。

「この絵解きでは、死後の地獄が描かれていますが、この世を生き地獄と感じる方に、畔柳さんはどんなことばを投げかけますか?」

こんな究極の質問を、しかもこの緊張感あふれる場で、答えられるのか。しかし、畔柳さんの答えは、実に堂々としたものでした。

「わたしには仏さまがおられる。仏さまがいるおかげでどんなことも乗り越えられる。だから、あなたにも信仰を持ってもらいたい。そのようにお伝えします」

もちろん、この回答がベストかどうかは分かりません。「信仰を持て」と言われてすぐに信仰を持てる若者がどれだけいるのか、悩み苦しむ人をそのひと言だけでただちに救えるのか。

しかしながら、H1は仏教のすそ野を広げるための法話イベントです。あの緊張の大舞台で、いまだ仏さまの教えに巡り合っていない人に向けて、よどみなく、力強く、信仰の大切さを説いた畔柳さんの僧侶としての回答は、称賛に値するのではないでしょうか。

畔柳優世さんに訊く

あの瞬間、舞台上に立つ畔柳さん自身は何を思っていたのか、ご本人に伺いました。

ーーどうして『絵解き』という伝統的な法話を選ばれたのですか?

10分という制限時間内に納めやすかったこと。だれもが知っている話だったこと。そしてわたし自身が話し慣れていたからですね。地獄の話は、数千回やってますから。

ーー数千回⁉ ものすごい数ですね。

H1の直前は1日2〜3回くらい練習を重ねました。それだけやった話でも、本番ではいくつかセリフを飛ばしてしまいました。

ーーあの舞台にはそれだけの緊張感が?

ありましたね。舞台に立ってはじめて分かりました。怖いんです。お客さんとの距離が遠いですし、顔も見えないですしね。

ーーでも、客席からは堂々とした法話だと見受けました。

それはそれは、ありがとうございます。

ーー冒頭と終わりに、しっかりと合掌し、読経と念仏を唱えられていたのも印象的でした。

わたしたちの宗派(浄土宗西山深草派)の法話では、はじめと最後に必ずお念仏をお称えします。お寺の本堂でも、H1の舞台でも、そのスタイルは変わりません。あれをすることで、お聴聞の方々や布教師本人を落ち着かせるのだと、師匠から教わりました。

上の写真はH1法話グランプリ2021の舞台。下の写真は自坊・養寿寺での法話会。ともに念仏に始まり、念仏に終わる。

ーー実際に、畔柳さんが念仏を唱え始めたら、場内がしんと静まりました。

わたしもあの大舞台に呑まれそうになっていましたが、お念仏のおかげで気持ちを落ち着けることができました。

ーーまさに先人から受け継がれた伝統の智慧が、あのH1の舞台でも活きたのですね。

そういった作法ひとつとっても、受け継がれているものには意味があります。ご先祖さまが残してくれたものを簡単に絶やしてはいかんなと思います。

ーー畔柳さんの法話は、最も「伝統寄り」だったように感じます。その意図するところは?

「お念仏を称えて極楽浄土に往生しましょう」という話を古臭く感じる人もいるかもしれません。でもそれこそがお念仏の教えの根幹ですから、それをみなさんにお伝えするのが布教師の務めです。

ーー後藤さんの講評に、まさに伝統と現代のせめぎ合いを見たのですが、壇上ではどのような思いをされていましたか?

他の方に比べて、講評がきびしいなあと(笑)

ーーでも、畔柳さんの法話が、純度100%に近い伝統的なものだったからこそ、後藤さんの素朴な感想を引き出せたのではないかと、個人的に感じています。

そう言っていただけると、H1で絵解きをやった甲斐がありますね。ありがとうございます。

ーーその後の釋徹宗さんの講評も鋭いものでした。

でも、あの講評のおかげで、信仰を持つことの大切さをお伝えすることができました。釋先生のフォローに感謝しています。

ーー畔柳さんのアンサーは「信仰を持ってほしい」という力強くストレートなものでした。

あくまでも「わたしの場合は」と前置きをした上でのアンサーです。わたしは仏さまとともにいることでどんなことも乗り越えられます。信仰がわたしを救って下さる。でもそれは、きっとあなたにおいても同じなんだと、わたし自身は信じています。

「法話が大好きだ」と話す畔柳さん。自坊でも、宗派問わず布教師を招いて法話会を開催している。
2021年大会の翌年には、H1法話グランプリゆかりの僧侶を集めた超宗派の法話会を開催。多くの人が聴聞に訪れた。

法話があなたにもたらせてくれるもの

ーーまもなく『H1法話グランプリ2023』が始まります。H1を楽しみにしている人たちに、畔柳さんからメッセージはありますか?

登壇者の人たちは、おそらくものすごい緊張の中で、一生懸命原稿を作って、法話の稽古をされて本番に臨みます。そこから出てくる仏さまの話というものをかみしめてほしいですね。

ーー法話は、聴く人に何をもたらせてくれるでしょうか?

仏さまの教えを携えることで、確実に幸せになれます。仏さまやご先祖さまに見守られているという感覚が、自身の戒めにもなり、安心感にもなります。法話を聴くことは、その入り口に立つことではないでしょうか。

ーー宗派を超えたお坊さんが登壇されるからこそ、いろいろな角度から仏教の教えに触れられますよね。

そうです。浄土宗のお話がよかったなという方は浄土宗のお寺に、日蓮宗のお話がよかったなという方は日蓮宗のお寺に足を運んでもらいたいです。だからこそ、舞台に立つお坊さんたちには、その宗派の色や特徴を存分に出してもらいたいですね。


登壇者のすばらしい法話が、審査員から本質を突くコメントを引き出し、それによって聴衆の理解がグッと深まり、法話の説くところの“こころ”の奥深さを味わえます。お坊さんの話だけでなく、審査員のコメントも、H1を楽しむためのもうひとつのポイントなのです。

H1法話グランプリは、登壇者の法話に加えて、審査員の講評、そして、あなたの1票があってはじめて成り立つ法話会です。

話す人も、聴く人も、評する人も、すべての人にとって一発勝負の本気のライブ。だれもが真剣だからこそ、そこで語られる仏さまの教えが、より輝きを増すのかもしれません。

当日は、どうぞしっかりとお坊さんの法話に耳を傾け、審査員の講評に頷き、そしてあなたの気持ちの赴いたままに一票を投じてみて下さい。

あなたをやさしく包み込む仏さまの教えに出会い、「もう一度会いたい」と思うお坊さんと、ご縁を結べるはずです。


▶H1法話グランプリ公式サイトはこちらから。

▶畔柳優世さんのお寺・養寿寺(愛知県西尾市・浄土宗西山深草派)の公式インスタグラムはこちらから。

▶素心『こころね』による2021年大会レポート記事
『762組もの仏縁がつながる日-「H1法話グランプリ2021」現地レポート』

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取材・撮影・文 玉川将人

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