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宗教は推し活の原点だ!川邊健太郎✕浄土宗僧侶✕みほとけが考える「推しと祈りの交差点」

「宗教は推し活の原点だ」
お笑い芸人で
お寺仏像研究家の
みほとけさんの仮説が
白熱のトークセッションを
生みだしました。
場所は
日本仏教のイノベーター
法然上人ゆかりの聖地
くろ谷・金戒光明寺。
ゲストは
日本のIT界をその黎明期から
牽引してきた川邊健太郎さん。
2024年から突如「推し活」を始め
いまや熱狂的な
ハロヲタとして知られます。
そして
お寺アイドルや
Vチューバーなど
仏教の世界で
推しを仕掛ける僧侶たち。
どうして人は推し活をするのか。
宗教にあって推し活にないものとは。
「推しと祈りの交差点」について
存分に語り合いました。
モー娘。の魅力は「組織と人事の物語」
みほとけ 本日は国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」のサイドイベントとして、ここ金戒光明寺から「推しと祈り」というテーマでお届けします。6月にLINEヤフーの会長を退任されたばかりの川邊さんをお迎えしてのトークテーマは、なんと「推し活」です。私も一時期、ほんのちょっとだけAKB48に在籍していたこともあったのですが、川邊さんの推し活は界隈ではかなり知られていますよね。
川邊健太郎(以下:川邊) ハロー!プロジェクトにどハマりして、もう3年弱になります。ライブもしょっちゅう行きますし、海外遠征も、台湾、タイ、フィリピンと3回行きました。
みほとけ ハマり始めたきっかけは?
川邊 2024年の春に、元モーニング娘。の市井紗耶香さんのお話をじっくり聴く機会があって、モー娘。の裏側がめちゃくちゃおもしろかったんです。まさに「人事と組織の物語」だなと。

川邊健太郎さん。LINEヤフー株式会社の前会長(令和8年6月退任)、50歳を迎えた2024年頃からハロー!プロジェクト(ハロプロ)の推し活にどハマりしている。
みほとけ 人事と組織の物語?
川邊 そう! アイドルが商業的な存在である限りは、世の移ろいやマーケットの変化に対してずっと対応し続けなきゃいけないわけですよね。モー娘。は国民的グループとしてのポジションから一度凋落した時期もあったのに、そこからV字回復する。これってビジネス的に言えば完全に「ターンアラウンド(事業再生)」じゃん!と。一体誰がこれを成し遂げたのかと調べてみたら、道重さゆみさんの強烈なリーダーシップだった。
みほとけ 道重さんの物語に惹かれたのですね。
川邊 はい。さらに道重さんを中心にV字回復をしていく過程で、鞘師里保さんというプレイヤーも加入した。彼女のパフォーマンスは本当にすばらしくて、私の人生初の推しは、鞘師さんです(笑)

会場は、金戒光明寺の「大方丈」。推しと祈りをめぐる議論は、阿弥陀如来さまに守られながら進められた。
念仏は「コール」だ
みほとけ 川邊さんには「推しと祈りの交差点」がどのように見えますか?
川邊 エンタメ社会学者の中山淳雄さんと対談した時、彼が「推し活とは、能動的にコンテンツを消費するのではなく、積極的にすき間を埋めていく行為である」と定義されていて、これがめちゃくちゃ腑に落ちたんです。
みほとけ すき間を埋める?
川邊 ハロプロファンにとっての「すき間を埋める行為」は主に2つあると思ってて、その内のひとつが『コール』。曲の中に絶妙なすき間があって、そこにファンがコールを入れることで、はじめてひとつの音楽として完成するんです。
池口龍法(以下:池口) 今日も、このトークイベントを始めるにあたって、みなさんで「南無阿弥陀仏」のお念仏を十遍唱えましたけど、あれもコールだと言えますよね。

池口龍法さん。浄土宗・龍岸寺住職。フリーマガジン「フリースタイルな僧侶たち」創刊。念仏フェス「超十夜祭」や仏教めいどカフェ「ぴゅあらんど」など、仏教を広く現代に開く活動をプロデュースする。
川邊 ハロプロのコンサートでも、開演前に推しの名前を絶叫するという謎の儀式があります。みんな、信じるものを唱えているんです。
池口 かつてはお寺の本堂に大勢の人が集まって、みんなで一斉に木魚を叩いて、1時間も2時間もお念仏を唱えたものです。これも、阿弥陀さまへのコールですよね。
川邊 実際にライブ会場でコールをしてみると、これがめちゃくちゃ楽しい。人間は社会的動物だから、みんなで何か同じことをする、同じ声を出すって、それだけでプリミティブ(根源的)に気持ちがいいし、価値があることなんでしょうね。仏教には念仏があるし、キリスト教にも讃美歌がある。

トークセッションを始めるにあたり全員で合掌礼拝し、「南無阿弥陀仏」のお念仏を十遍お唱えした。
仏教はお釈迦さまの推し活
川邊 「すき間を埋める」もうひとつの行為が『関係性の解釈』です。ハロヲタたちの話題って、メンバー同士の関係性の話ばっかりなんですよ。
みほとけ めちゃくちゃ分かります!
川邊 これ、宗教もきっと同じで、お釈迦さまにも十大弟子がいて、イエスにも十二使徒がいますよね。宗祖と弟子のやり取りを、後世の推したちが勝手に妄想して、解釈する。そして解釈の天才が現れることで、その宗派が爆発的に盛り上がるみたいな。
池口 仏教って、言ってみればお釈迦さまの推し活だと思います。仏教経典のほとんどは、「お釈迦さまは本当はこういうことを言いたかったんじゃないか」という二次創作や三次創作そのものです。
川邊 宗教は間違いなく推し活の元祖ですよ。
池口 その二次創作や三次創作を、たとえば法然さんや親鸞さんといった方々が独自の解釈をして、さらに彼らを推す人たちが現れて……、という感じでそれぞれの推し活として盛り上がってきたというのが、日本の仏教じゃないかと思いますね。
川邊 アニミズム以外はどの宗教にも宗祖がいますよね。推し活はアイドルを崇拝し、宗教は宗祖を信仰する。
みほとけ 池口さんや河村さんの「推し宗祖」である法然上人は、まさに解釈の天才だったわけですか?
河村英昌(以下:河村) 法然上人は、従来のむずかしい学問やきびしい修行を必要とする仏教の世界において、「10回の念仏を唱えるだけで誰もが救われる」というお念仏の教えを見出しました。法然上人の解釈が、仏教を民衆に開放したと言えます。

河村英昌さん。浄土宗・大光寺副住職。「社寺の1000年後の未来につながるご縁をつくる」というヴィジョンを掲げ、サラリーマン×お坊さん×経営者として文化活動を多岐に渡り実践。
みほとけ 河村さんにとっての法然上人の推しポイントは?
河村 「自分なんて完全に悟りに至るのはむずかしい、だからこそみなさんも一緒に阿弥陀さまを慕いましょう」という、徹底した謙虚なスタンスですね。
みほとけ ハロプロの歴史は30年、一方で日本の仏教の歴史は1200年です。元祖があって、分派しながら歴史が続いていくっていうのは、構造的に似ているところがあるのかな?
川邊 ハロプロは、モー娘。を元祖として派生グループが生まれてて、アンジュルム、Juice=Juice、つばきファクトリーと、続いています。
池口 仏教の場合、宗祖本人はそんなに長く続くとは思っていなかったはずですけど、どの宗派にも「中興の祖」と呼ばれる方がおられます。
みほとけ 道重さんは、まさにモー娘。の「中興の祖」ですね。
池口 長い歴史の中で、お寺にも衰退期があるし、みんながみんな真っ当な住職ばかりじゃない。でも、そこでグッと盛り返す改革者が現れて、ターンアラウンドして、あとに続くための『仕組み』を作ったのが大きいでしょうね。

みほとけさん。浅井企画所属のお笑い芸人・お寺仏像研究家。仏像オタクでありアイドルオタクでもある。仏教と信仰をもっと身近な存在に感じてほしいと当イベントを企画・主催。
みほとけ どうして人間は、今も昔もこれほどまでに推しに夢中になるんでしょうね。
川邊 やっぱり人間は社会的な動物だし、そして悩み深き生き物だからですよ。世の中、救いがないとやってられないですよ。
みほとけ 川邊さん自身も、ハロプロに救われていますか?
川邊 めちゃくちゃ救われてますよ!毎日が元気になります。
みほとけ すばらしい!
川邊 伝統宗教が社会に根付いている国なら、それを日々の拠り所にできますよね。一方で多くの人が無宗教を自認してるのが今の日本です。だからこそ、宗教の代わりとして推し活がこれだけ流行ってるんじゃないのかな。
みほとけ でも河村さん。一方で普通のキャラクターグッズよりも、お寺のグッズの方が売れることもあるんですよね?
河村 アニメやゲームとのコラボで限定のお守りや御朱印を作ってみると、こちらの方が通常のグッズよりも売れ行きがよかったりします。
川邊 御朱印やお守りこそ「元祖・推し活グッズ」なのでしょうね。貨幣経済以前からある宗教のメタファーとして、商業化された物販グッズが売られている。お寺の木魚や数珠が、ライブ会場のペンライトになってたり、宗教の仕組みが商業的に焼き直されているだけで、その構造はほぼほぼ一致しているのがおもしろいですね。
宗教にあって推し活にないもの
みほとけ ここまで「宗教と推し活の交差点」について語ってきましたが、一方で、「宗教にあって推し活にはないものは?」という素朴な疑問も生まれてきます。
池口 歴史の長さと、成熟された安心感じゃないでしょうか。アイドルの推し活は、どこかふわふわしているところがある。「この子しか推さない!」と熱狂していたファンでも、そのグループが解散した途端に、翌日には別の若い子を推し始めたりする。推し活で元気になれるものの、「心の継続的な安心」がもたらされているかというと、ちょっと分からない。仏教には、数千年にわたってたくさんの人々の悩みを解決してきたという圧倒的な実績と、ずっとそこにあるという安心感があります。
川邊 フランスの言語学者バンヴェニストが「崇拝」と「信仰」の違いについて定義していました。この2つは似て非なるもので、「崇拝は憧れのエネルギーで、信仰は生き方の軸だ」
みほとけ 崇拝は憧れのエネルギーで、信仰は生き方の軸。
川邊 推しのライブに行くと元気になれるけど、どこか刹那的で消費的。対して信仰は「生き方の軸」だから、元気をもらえるだけでなく、安心がずっと継続する。
みほとけ なるほど。
川邊 私の見る限り、アイドルオタクたちは崇拝をしているのであって、まだ信仰の域にまでは達していない気がするんです。だからこそ、私はハロプロを生き方の軸にしているハロヲタにいつか会ってみたい。一体どういう生き方をしてるんだろう、と(笑)
河村 私はよく「僧侶とは、職業ではなく“生き方”そのものだ」と答えています。自分がどうあるべきか、どう生きるべきかを内省するのが宗教。推し活が「誰かへのあこがれ」だとすれば、仏教はブッダへの憧れから一歩進んで、「じゃあ、そこから自分はどう生きるのか」と、矢印を自分の内側に向けます。そこが大きな違いじゃないでしょうか。
みほとけ みなさんの解釈もすばらしいですね。しびれてしまって、次のことばが出てこないです。

当日は約150人が来場。IVSの参加者、仏教ファン、みほとけさんファンらが、4人の白熱した議論に耳を傾けた。
誰かを推し、やがて推される存在に
みほとけ 今日、ここには未来を切り開こうとしている多くのビジネスパーソンや起業家が集まっています。この「推し活」や「祈り・願い」の持つエネルギーを、これからの経営や生き方にどう活かしていけばいいでしょうか。
池口 お寺アイドルのプロデュースを経験して、推し活が持つ「人間のエネルギーの開放」のすごさを肌で感じました。自分自身の生き方を変えるための軸として、推しへの崇拝だけでなく、ぜひ「信仰」や「お寺」も人生に取り入れてみてください。
河村 推し活のほどよい距離感をすばらしいなと感じています。遠くから眺めているだけのファンよりも、推しには「自ら能動的にすき間を埋めにいく」という強い主体性がある。近づきすぎず離れすぎず、自分の人生を豊かにする推しをお寺や日常の中で見つけられたらいいなと思います。
川邊 推し活の活かし方には、ミクロとマクロの2つの視点があると思います。
みほとけ じゃあ、まずはミクロの方からお願いします。
川邊 推し活を始めてみて分かったのは、50歳を過ぎて、朝起きて真っ先に推しのことを考えているなんて、人生において最高に幸せだということです。みなさん、最後に恋をしたのはいつですか? 恋以外で、こんな瑞々しい感情をもう一度持てるなんて、本当に素敵なことですよ。
みほとけ たしかに、そうですね。
川邊 マクロの視点で見ると、やっぱりこれからの世界では生成AIの影響は避けられないですよね。すべての製品、サービス、プロダクトは、高いレベルで平準化することは間違いない。そんな未来で「何の差でモノが売れるか」と言ったら、それが「推し活化」しているかどうかに尽きるんです。
みほとけ 推し活化、ですか。
川邊 私自身、この2〜3年ハロプロを猛烈に推したことで、人が何に熱狂するのかをリアルに知ることができました。これから新しいものを生み出したい起業家やビジネスパーソンは、今すぐ何でもいいから猛烈な推し活を始めて、その熱量の生み出し方をビジネスにインストールしてほしいですね。
みほとけ 推し活を学ぶために、まずは何かを猛烈に推してみる。そして、自分たちも誰かから推される存在になっていく。そのヒントが、実は1200年続いてきた仏教の歴史やお寺の佇まいの中にもたくさん詰まっています。ですので、どうぞみなさん、お寺を身近に感じてもらいながら、お参りしてみてください。本日はありがとうございました!

※この記事は、2026年7月2日、金戒光明寺で開催された『経済×仏教トークセッション「推しと祈り」〜川邊健太郎と浄土宗僧侶が語る”宗教”と”アイドル”の交差点〜』を現地取材し、再構成したものです。
撮影・構成・文 玉川将人
撮影 粟生密有




