こころね

お坊さんに訊く天台宗【仏事・仏具編】~ご本尊、お位牌、お焼香から法事で用意すべきものまで~

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天台宗ってどんな宗派?
ご本尊は何を祀るの?
お焼香の数は?
今度、天台宗のお坊さんが来るけど
何を用意すればいいの?

そんな「天台宗迷子」のあなた!
必見です。

天台宗の仏事や仏具について
現役の天台宗僧侶に
たっぷりお話を伺いました。

私たちの疑問を解決してくれるのは
前編に引き続き
姫路市正明寺の副住職
小林恵俊さん。

ご本尊、位牌、法事の準備。
この記事を読んでいただくことで
仏事や仏具に込められた意味が
より深く理解できます。

心がホッと和む恵俊さんの人柄と
かわいいサメくんの佇まいも
あわせてお楽しみ下さい。

※前編「お坊さんに訊く天台宗【教え・歴史編】~1200年続く最澄と比叡山の魅力~」はこちらから!

Q 天台宗のご本尊は、結局どの仏さまをお祀りするの?

ー 天台宗のご本尊って、「この仏さま!」という決まりがないのですよね?

ええ。

ー これに関しては私たち仏壇店もよく悩みますし、私自身もなんでだろうと疑問でした。ネットで「天台宗 本尊」と検索すると「阿弥陀如来、釈迦如来など」って書いてあったりします。「など」って書かれても…(笑)

迷ってしまいますよね。

ー ほかにも、「薬師如来、不動明王、観世音菩薩でも可」みたいな書かれ方もあって、仏さまに「でも可」って大丈夫なのかなと、むしろ心配になってしまいます(笑)

天台宗のご本尊については、実際に私のYouTube動画でも取り上げたテーマです。

ー 私もあの動画を観て、合点が行きました。

本当に、どの仏さまをお祀りしてもいいんですよ。

恵俊さんによる天台宗のご本尊についての分かりやすい解説動画です。「天台宗の本尊様ってどの仏様でしょう?」YouTubeチャンネル『僧侶えしゅんのサメに説法』より

 

ー それは、天台宗が、法華経、密教、坐禅、念仏など「何でもやる派」の教え(※詳しくは前編へ)だからですか?

そうですね。天台宗の根本経典である『法華経』では釈迦如来が大切だとしていますし、比叡山の根本中道には薬師如来が祀られていますし、私のいる正明寺のご本尊は阿弥陀如来です。

ー 本当に「何でもあり」なのですね。お寺の本堂だったら分かるのですが、一般のおたくで、お不動様や観音様を祀っているところもあるのですか?

そういうおうちもありますね。ただ、どの仏さまにしようかなと迷われている方や、お仏壇をこれから新たに祀られる方は、阿弥陀如来がいいと思います。

ー どうして阿弥陀如来がよいと思われるのですか?

阿弥陀様の教えというのは、故人様を西の彼方にある極楽浄土に導いて下さるというもの。死の不安をやわらげてくれるのに最も適した仏さまと言えるからです。

ー なるほど。お仏壇って、亡くなった人と向き合う場所ですもんね。

はい。実際に全国の天台宗のお寺の中で、阿弥陀如来をご本尊とするお寺が一番多いという調査結果も出ています。

座ったお姿の阿弥陀如来。私たちの業界では「座弥陀」と呼びます。坐禅をしているところが天台宗らしい。(素心加古川店)

こちらは釈迦如来。天台宗のお仏壇で阿弥陀如来と並んでお祀りすることの多い仏さまです。(素心姫路店)

ー シーンにあった仏さまをお祀りするのがよい、という考え方なのでしょうか。

そうとも言えます。菩提寺のご本尊にあわせた仏さまをお仏壇にお迎えするというところもあるようです。

ー なるほどです。

中には「お不動様をお祀りしたい!」みたいな方もおられて、もちろんダメなわけではないのですが、それはそれで大変ですよと、個人的には思いますね。

ー と言いますと?

不動明王は護摩を焚く時に祀られる仏さまです。そこには厳しい修法があって、それを前提にして祀られている。ですから、ある程度の覚悟を持ってお祀りいただきたいなと。

ー どの仏さまでも、きちんとその仏さまをお祀りする意味なり所作なりがあるってことですね。

そうですね。

Q 天台宗の位牌はどうして「ア」?

ー 「何でもやる派」の天台宗ですが、位牌につく梵字は大日如来を表す「ア」ですよね?

はい。

ー 阿弥陀如来の「キリーク」でもなく、釈迦如来の「バク」でもなく、どうして「ア」なのでしょうか?

「ア」は大日如来を表す梵字でもあるのですが、仏さまの智慧の象徴でもあり、すべての始まりを意味する言葉です。

ー そんな壮大な意味があったんですね。

大日如来というひとつの固定の仏さまというよりも、もっと広いものを表す象徴としての「ア」だと思ってもらえればいいかなと思います。

Q 天台宗のお葬式は何のためにするの?

ー 天台宗では、お葬式は何のためにするのですか? その意味や目的を一言で表現すると、どんな言葉になりますか?

故人様を極楽浄土に送り出すための儀式です。

ー 極楽浄土に行くと故人様はどうなるのですか?

極楽浄土は落ち着いて修行に専念できる場所です。そこで修行をして、仏になり、苦しい思いや悩みから完全に離れることを目指します。

ー 前編で、『法華経』はどんな人でも仏になれると説かれていると話していましたけど、仏になることと極楽浄土に行くことはイコールなのですか?

イコールと言えばイコールですけど、時間の隔たりがあるかもしれませんね。仏様を目指すなら、生きている時から目指すべきで、それは法華経でも密教でも同じです。

ー うーん。なるほど。でも、生きている間から仏様を目指すというのは、なかなか難しいですよね…。

はい。ですから、亡くなった方をまずは極楽浄土にお連れして、そこで修行を積んで、成仏を目指しましょう、という考え方です。

ー 修行に専念するための極楽、なんですね。

そうです。ちなみに、故人様を極楽浄土に送りだすことを「引導いんどう」と呼びます。

ー 「引導を渡す」っていう言葉がありますよね。

そうですね。そして葬儀の中で引導と並ぶもう1つの大切な儀式が「授戒じゅかい」です。すべての出家者は、正式に僧侶となる時に「戒」(僧侶が守るべき決まりごと)を授かります。同じように、亡くなった方にもまず戒を授けて仏さまの弟子になってもらい、それから極楽浄土に送り出すのです。

ー まとめると、戒を授けて仏弟子となった故人様を浄土に送りだし、そこで仏様となるための修行を積んでもらう、ということですね。

はい。だからこそ授戒と引導の2つが、葬儀では最も重要な儀式となります。

ー よく理解できました。

ちなみに、戒とともに授かる名前のことを「戒名」と呼びます。

ー 戒名とは、仏弟子としての新たな名前、ということですね。

はい。

Q 地獄ってどんな場所ですか?

ー 極楽があれば地獄がありますよね?

はい。

ー 地獄と極楽と言えば源信和尚。平安時代を生きた天台宗のお坊さんです。

極楽往生のための方法をまとめた『往生要集』は大変に有名な本で、その序盤にはすさまじい地獄の姿が描かれています。

ー のちの浄土宗や浄土真宗にも影響を及ぼす大著ですが、一方で、天台宗はどんな人でも仏になれるとも説いている。みんな等しく仏になれる一方で、みんな等しく地獄にも落ちることもある、ということですか?

うーん…。まあ、そうですね。

ー だからこそ、今を一生懸命生きて極楽を目指そうよってことなんでしょうか?

はい。ただまあ、あまり「地獄に落ちますよ」とは言いませんけどね。不安を煽るのがあまり好きじゃないので…。

ー とても誠実なお言葉ですね。

地獄と極楽って、死後の行き先の問題としてだけでなく、いまのこの世界でのあり方が、地獄にあるのか、極楽にあるのか、と考えることもできます。

ー あり方?

はい。怒りに捉われている人はそこが地獄ですし、今が満たされている人はそこが極楽。

ー なるほどです!

だからこそ、生きている内から地獄を避けて極楽を目指す生き方をしましょうねと。生前から地獄の心持だと、死んだあとも地獄に行くかもねと、そういう言い方はできるかもしれませんね。

Q 天台宗のお線香の本数は? お焼香の回数は?

ー いろいろな本やインターネットなどを見ていると、天台宗ではお線香は「1~3本」、お焼香も「1~3回」と書かれていまして、これも答えが明確じゃなくて迷ってしまいます。

私は、「迷ったら3回しておいて下さい」とお伝えしています。

ー おお! 明確な答え。それはなぜ?

天台宗ではお坊さんの回数が3回だからです。

ー そうでしたか。なぜ3回なのですか?

僧侶の場合、お焼香を上げるときに称える文句が決まっているんです。その文句の区切りでお焼香をすることになっていて、それが3回なんです。

ー なるほど。

焼香の時には数珠を手にします。画像は恵俊さんが普段使用しているもの。天台宗の正式な数珠は平たい球を108個つないでいるのが特徴です。

 

お線香も3本が基本です。これは三宝(仏・法・僧)に献じるという意味があります。

― 迷ったら3回。迷ったら3本。

もちろん、3回にこだわる必要はありません。葬儀の参列者が多い時には1回にすることがあるほどですから。そもそもお焼香というのは、香りのお供え物のことですから、回数よりも心が大事です。

ー 「香りのお供え」。とても素敵な表現です。

香を焚いて香りを届けるのに、回数はさほど関係ないですよね。

ー たしかに、お花のお供えも、花の本数なんて気にしないですもんね。

はい。1回でも、3回でも、想いを込めていただければと思います。

Q 法事で用意しておくべきもの

ー 普段のお祀りと違って、法事の時に特別に用意しておくべきものってありますか?

それは、仏具屋さんの方が詳しいような気が…(笑)

ー お坊さんがご供養するにあたって、これはあった方がいいというものを教えてもらえると、とてもありがたいです。

なるほど。

ー 木魚と鉦吾はいかがですか?

あった方がいいですね。お寺の勤行では必ず使いますから、おうちにもご用意していただいた方がより法事が締まります。でも、無ければ無いなりに対応しています。

読経の時に叩く木魚(左)と、念仏の時に叩く鉦吾(右)

ー 内敷やお膳は?

こちらも無いよりはあった方がいいですよ。内敷はお仏壇をきれいに飾るもの。お膳は仏さまへの特別なお飾り。こうした法事の時の形式にこそ「想い」を込めることができます。

法事のお飾りの基本。金襴の布が内敷。その上にお膳を載せる。

ー お焼香用の香炉はいかがですか?

ご用意していただくとありがたいですね。法事がスムーズに進みます。

ー 万が一おうちに香炉が無い場合はどうされますか?

その場合はお寺から持参しますが、できればおうちのものを使わせていただきたいです。

ー それはなぜですか?

さっきの話につながるのですが、お焼香を作法としてだけではなくて、お供えのひとつと考えた時に、そこで使われるお香や器も、自分たちで用意することの中に、故人様への供養の想いが込められるのではないか、そう思うからです。

お焼香のセット

ー これはとても本質的な大事なお言葉ですね。お供えに借り物を使うんじゃなくて、自分たちで用意しましょうよと。

はい。まさに。

ー とても素敵な考え方です。

「気持ちが大事」とは言いますけど、人って案外と自分の都合のいいように考えがちで、「気持ちさえ込めていればモノは何でもいいでしょう」という言葉の中にはその人のエゴが見え隠れしているようにも思えます。

ー 分かる気がします。

そうじゃなくて、自分でお香や香炉を用意する方が、気持ちがグッと入ると思うんです。モノはどんなものでもよくて気持ちだけ込めるというのは、逆に難しい気がします。

ー 気持ちを込めていると、それがきちんとモノにも表れますよね。

そう思います。ただ「お坊さんが楽だから香炉を用意してほしい」とかではなく、モノに心を込めるという意味でも、なるべくご自身で仏具やお供え物を用意してもらいたいですね。

ー 仏具店も、ただ仏具をモノとして売るのではなく、そこに心が込められるのだということを理解して売らなくてはいけませんね。いやあ、めちゃめちゃ勉強になります。

もちろん、経済的な事情があって木魚や香炉などが用意できないという方がおられるのもよく分かりますし、用意できなければできないなりのやり方があるので、そこは安心していただきたいです。

ー 仏事や仏具のお話から、仏さまやご先祖様への心構えという深いお話まで聞かせていただきました。恵俊さん、サメくん。今日は本当にありがとうございました。

ありがとうございました。


天台宗の仏事や仏具について、お分かりいただけました?

小林恵俊さんは、Twitter、YouTube、TikTokなど、さまざまなSNSメディアで精力的に活動されています。天台宗のことで気になることがありましたら、気軽に訊ねてみてはいかがでしょうか?

また、私たち素心もお客様に寄り添って、仏事や仏具のお手伝いをしています。疑問やお困りのある方はお気軽に素心にお問い合わせください。

※前編記事がまだの方はこちらから「お坊さんに訊く!天台宗【教え・歴史編】


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正明寺HP(姫路市:天台宗)


構成・取材・撮影・文 玉川将人