こころね

即興✕仏教用語禁止⁉ 世にも愉快な法話会を潜入取材 in 須磨寺

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2022年5月29日
神戸市の須磨寺で
世にも愉快な法話会が行われました。

登壇者や来場者が一体となって
こんなにも笑いの生まれる法話会って
未だかつてあったのでしょうか?

笑いあり、涙あり、ツッコミあり
たじたじになりながらも
最後は心にじんわり染み込んでいく
お坊さんのありがたい法話

仏教井戸端トーク
お題法話/仏教用語禁止編

当日の模様を
楽しく愉快にお届けいたします。

取材のオファー

2022年4月1日。神戸市須磨区、大本山須磨寺。

副住職の小池陽人さんのインタビュー取材(現在執筆中)を終え、帰り支度をしていたところ、「あっ!5月29日に面白いイベントがあるんでぜひ取材に来てくださいよ」と、まさかの逆オファー。差し出されたチラシがこちら。

「井戸端トーク?」
「お題法話?」
「仏教用語禁止?」

なかなかシュールなワードの組み合わせ。これらが私の頭の中でどうもカチッとつながりません。

というのも、仏教の法話と言えば…

●お坊さんは少し高い位置に立ち
●私たちは畳に座ってお坊さんを見上げて
●少し難しい言葉がまじりながらもありがたいお話を聴く

…ものだとばかり思っていたからです。

しかし、このイベントは、

●井戸端で
●しかもお題があって
●極めつけは仏教用語が禁止

ある意味『笑点』の大喜利や、『人志松本のすべらない話』よりも酷なルール。

「お客さんから頂いたキーワードを使って即興で法話を作って話すんです。しかも仏教用語禁止で!」

…と、嬉々として話す小池さん。お坊さんたちから仏教用語を奪い取った法話会。しかもそれをお坊さん自身が企画しているのだから、相当のMっぷり。にもかかわらず目の前では「面白そうでしょ」とさわやかな笑顔。思わず「取材します!」とGoogleカレンダーにスケジュールしておりました。

須磨寺副住職・小池陽人さん

当日 いざ、須磨寺へ!

5月29日、日曜日。額に汗かく陽光の中、須磨寺へ。
会場となるのは境内にある青葉殿。あの「H1法話グランプリエピソードZERO」の開催地でもあるまさに法話界の聖地。

「ほほう。この聖地で仏教用語を奪われた丸裸のお坊さんたちのドタバタトークが行われるのだな」と、わくわくドキドキしながら会場へと足を進めます。

新緑の須磨寺。当日は汗ばむほどの陽気に恵まれました。

青葉殿。講堂と納骨堂を兼ね備えた建物です。

約300のチケットは完売。地元の方はもとより県外からの来場者もたくさん。北海道からという熱心な方もいたとのこと。近頃盛り上がりを見せる仏教人気を肌で感じます。

司会は仏教伝道協会の増田将之さん(浄土真宗)。実は登壇者の誰よりも流暢ではないかと思わせる弁舌で会場を大いに盛り上げます。

なんせ即興のお題法話ですから、お坊さんたちも気づかないうちに仏教用語を使用していたってことも考えられます。

そこをきちんとジャッジするのは、超宗派の仏教フリーマガジン『フリースタイルな僧侶たち』の初代編集長の池口龍法さん(浄土宗)と、現代表の加賀俊裕さん(真言宗)。

司会と審査員を配置し、万全な体制のもと、法話会スタートです!

司会の増田将之さん

審査員を務める池口龍法さん(左)と加賀俊裕さん(右)

第1セッション

増田さんの呼びかけにより、来場者がお題を投げかけます。5つのお題の内、3つの言葉を使って法話を考えなければなりません。お題はこちら!

第1セッションで際立ったのはトップバッターの英月さん(浄土真宗)。「2500年前にインドで生まれた“この人”が話したものをまとめた読み物が8万4千くらいあるらしいですわ」と、会場をいきなり沸かせます。

「お釈迦様が説かれたお経」と言えないもどかしさを突き破るほどの威勢の良さ。しかしここから、人間の価値観で物事を量ることの愚かさに話が及びます。

英月さん

「ジョン・レノンが素晴らしいとか、ボランティアがいいことだとか、私たちはつい世間の価値観でいい悪いを決めている。ボランティアしたくてもできないこともある。笑顔だってしたいときもあればできない時もある。でも、いまこうやって座っていること、同じ場所で出会えていることだってものすごいことなんです。世間の価値観で物事を量るのは闇。それを破るのがこの人の光です」

お題が決まってからわずか3分。いただいたワードを無理くり絡めながら、仏教用語を使わずにその教えをきちんと説くなんて、その手腕に思わず舌を巻きます。

2番目に登壇した渡邊弘範さん(真言宗)は、お参り先の幼い子どもたちの姿を通じて、亡き母から贈られた衣が光に包まれたようにあたたかく感じられたエピソードを話します。

冷や汗をかきながら言葉をひねり出すのですが、禁止ワードである「檀家」を連発。意に介さないまま明るく元気に話を続けるさまは勇敢そのものでしたが、あとから審査員の総ツッコミを受けることになります。まさにこの日一番のハイライトだったと言えるでしょう。

渡邊弘範さん

この日の会場は音響の調子がすぐれず、かすかな異音のある中で法話会が進みます。

3番目の小池さんは、「人生は思い通りにならない。音響テストも昨日までは問題なかった」と音響トラブルを逆手に取って法話を始めます。ミヒャエル・エンデの小説『モモ』を引き合いに出し、虚しさや虚無感は過去や未来に捉われすぎているためだと説き、心理学者の河合隼雄さんの「(新幹線の)“のぞみ”はないけど“ひかり”はある」という言葉を用いて、「マイクの調子が悪くても光は注いでいる」と締めくくりました。

「すごい、これはすごいぞ…」

一眼レフのシャッターを押しながらここまでの法話を聞いていて、これはただの愉快な集まりではないぞと気づきます(愉快だけど)。

法話のありがたさはじんわりとあたたかいものとなって私の肌の中に染み込んできましたし、何よりも「即興&仏教用語禁止」という鬼ルールの中でここまでのお話ができるその凄みに驚きます。

しかしなんせここは関西。来場者からは厳しい指摘が相次ぎ、笑いが渦を巻きます。

「こうして法話を…」なんて言ってしまおうものなら、「あっ、法話言うた!」とツッコミが入り、「お寺にお参りを…」なんて言ってしまうと、「お寺言うた!お参り言うた!」と指を差される。さすが関西のお客さん。

普段は「住職」「和尚」「先生」などと敬称で呼ばれるお坊さんたちも、この日はあちこちからツッコまれ、たじたじです。

阿弥陀如来の無量寿についてどうしても話したかった英月さん。「うーん、うーん」と頭を捻らせながらも、最後は「もう言いますね。阿弥陀です!」と匙を投げる姿に会場も大盛り上がりです。

 

第2セッション

2回目ともなると会場内の雰囲気にだいぶ慣れてきた模様。あちこちから来場者の手が挙がり、お題をリクエストします。

ちなみに5つのお題はこちらです。

第2セッションはじゃんけんの結果、渡邊弘範さんからスタート。

ご自身があこがれているという故松原泰道師(臨済宗の僧侶、2009年に101歳で死去)の著書から、心温まる詩を渡邊さんの人柄あふれるやさしい声で暗誦します。この時ばかりはツッコミも起こらず、会場全体が静かに渡邊さんの声に聴き入ります。

英月さんは、あこがれこそが苦しみの源になりうると説きます。

「モノを買うのではなくあこがれの自分を買っている。かばんを買うのは素敵なかばんを持つ未来の私を買っている。あこがれは今の自分を否定することにもなる。今の私はダメなのか? そんなことはないと、ここにおられるこの方(お釈迦様)は仰っています」

一方で「真言宗は欲望を生かす教え。あこがれの存在を持つことが生きるエネルギーになる」と話す小池さん。欲望に支配されそうになった時は、頭だけであれこれ考えず、手足を動かすことを勧めます。

また四国遍路のことを「88のポイントをゲットする旅」と表現。「旅も人生も、かばんの中の荷物は軽い方がいい」という言葉に来場者全員が頷いていました。

「心が楽になる」「前向きになれる」…参加者の声

法話会は大盛況のうちに幕を閉じました。早速何組かの参加者に感想を伺いました。

明石市から来場のご夫婦は、「昔からよく須磨寺に来ている。いつもYouTubeでも法話を聴いて心が楽になります。親しみのある近所のお寺に小池さんのような素敵なお坊さんがおられる。さらに日本中のお坊さんがここに集まってくれることも嬉しい」と話します。

また神戸市から来た親子もお題法話にご満悦の模様。「お寺にお参りに来ることで前向きになれた。今日の法話も笑いの中にもありがたい言葉がたくさんありました。共通していたのは価値観に縛られないことで苦しみから解放されるということ」と法話会を振り返ります。

書籍販売。サインを求めに長い行列ができました。

台本なしの即興法話。お坊さんの苦しむ姿に笑いながらも、仏教用語を奪われた先にひねり出された言葉は、まさに身体の髄から発せられた金言ばかり。その上、専門用語が使えないからこそ、誰もが理解できる分かりやすい言葉に置き換えられて、仏さまの智慧が伝わっていきます。

実際に現地で観覧することで、その企画の秀逸さに気づくことができました。エンタメ要素満載で、かつ仏さまの教えが自分自身のためになり、こうも晴れやかな心地になれたことに、私自身も驚きました。

敷居が低く、分かりやすい。お坊さんとの距離感が縮まるからこそ伝わる仏教の智慧と教え。

仏教井戸端トーク。近いうちにまた日本のどこかで開催されるはず。楽しみにしています。南無仏教!


▼当日のダイジェスト&小池さんと増田さんの対談動画はこちらから

▼小池陽人さんの即興法話の模様はこちらから

▶仏教井戸端トーク公式HPはこちらから

▶大本山須磨寺公式HPはこちらから


取材・構成・文 玉川将人