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煩悩の数は36,000⁉「いいね」の数だけ除夜の鐘を撞いた住職の「命の使い道」

年末年始の風物詩
「除夜の鐘」
近年、この除夜の鐘を
とりやめるお寺が増えているのだとか。
そんな中
「除夜の鐘文化を残したい!」
との思いから
「いいねの数だけ鐘を撞く」と
宣言した住職がいます。
集まった数はなんと、36,000!!
煩悩の数をはるかに超えたこの数字に
住職はどう立ち向かったのか。
そもそも煩悩ってこんなに多かったのか。
大みそかから1月7日までの8日間。
住職を奮い立たせたもの。
鐘を撞き続けて見えてきたもの。
見法寺の小林正尚住職に
たっぷりとお話を伺いました。
「もう一度会いたいお坊さん」でありたい
―― 小林さんは、山梨県北杜市にある日蓮宗・見法寺のご住職でおられます。今日は山梨県と兵庫県をリモートでつないでのインタビュー、ありがとうございます。
小林正尚住職(以下省略) こちらこそ、ありがとうございます。
―― 実は小林さんとは、「はじめまして」じゃないんですよね。
そうそう。よく覚えていますよ。H1法話グランプリですばらしい記事を書いて下さいましたね。その節は本当にありがとうございます。
―― なら100年会館で初開催のトップバッターが小林さん。私も現地にいましたが、元気いっぱいの法話を今でも鮮明に覚えています。
ありがとうございます。残念ながら受賞には至りませんでしたが、あの大会で私の目的は充分に達成されました。
―― その目的とは?
「記憶に残るお坊さんになる!」ということです。玉川さんの記憶にしっかり残って、本当によかったです。H1法話グランプリが掲げている「もう一度会いたいお坊さん」というのは、いまでも私の中で大きなテーマになっているんです。

H1法話グランプリ2021。トップバッターで登壇した小林正尚住職。(著者撮影)
「坊主憎けりゃ、鐘まで憎い?」除夜の鐘が消えゆく理由
―― Threads(meta社が運営するテキストベースのSNS)のタイムラインに変な投稿が流れてきて、誰がこんなことをしてるんだと思ってプロフィールを見たら、なんと小林さんでした(笑) 『除夜の鐘チャレンジ』を思いついたきっかけは?
近年、除夜の鐘をおしまいにするお寺が増えていて、この現状を何とかしたいという想いがありました。ここ山梨県でも、除夜の鐘をとりやめるお寺が少なくありません。
―― そうですか。その理由は?
そもそも人が集まらないというお寺もありますし、「鐘の音がうるさい」「参拝者たちがうるさい」といったネガティブな意見への配慮もあるでしょうね。
―― 一方で、除夜の鐘を楽しみにしている人もたくさんいますよね?
はい。私が思うに、アンチ除夜の鐘の方々は、そもそもお寺や僧侶のことをよく思っていない方たちではないかと。「坊主憎けりゃ、鐘まで憎い」(笑)
―― もし本当にそうならば、仏教界としては、憂うべき事態ですよね。
そう思います。除夜の鐘って、多分お寺が行う行事やイベントの中で最もオープンなものじゃないですか。誰が来たっていいし、みんなで新年をお迎えするわけですし。
―― この文化を絶やすわけにはいかないと?
はい。除夜の鐘を楽しみにしているたくさんのサイレントマジョリティのためにも、「除夜の鐘を楽しく盛り上げてみよう!」というのがこの取り組みのきっかけでした。

大晦日のThreads投稿には、1.3万を超える「いいね」が寄せられた。
“八ヶ岳下ろし”に耐え、撞いた鐘の数36,000回
―― ふたを開けてみれば集まった「いいね」の数がなんと、36,000。この反響をどう受け止めましたか?
そりゃもう、ビックリですよ! 1000いいねくらい行けばいいかなと思ってましたが、お参り中もスマホの通知が止まらないんですよ。その日の夕方にアプリを開くと13K(13,000いいね)。これは大変なことになったぞと。
―― しかも、小林さんの動画を観ていると、ただ鐘を撞くだけでなく、ひとつ撞くごとにきちんと合掌とお題目(南無妙法蓮華経)をされているんですよね。
それは、日蓮宗の僧侶としての基本ですから。まあ、少しだけズルして連打をしちゃいましたが。
―― お身体の具合は?
腕がパンパンでしたが、2日前にようやく筋肉痛が引きました(笑)
(※取材日は1月15日)
―― やってみて大変だった点は?
肉体的なしんどさよりも、寒さがとにかくきつかったですね。鐘撞きって、実際には直立不動で腕しか動かさないんです。そしてここは山梨県の山寺で、冬は「八ヶ岳下ろし」と呼ばれる風が容赦なく吹きつけて、身体が芯から凍えていく……。
―― それを8日間やり通したわけですよね?
実際には、よそのお寺への出仕や、自坊の法要などで、鐘を撞けない日もありました。ゼロの日もあれば、逆に9,000回という日もありました。
―― 9,000回…。
あと、うちのお寺では「八日堂祈願会」という連続法要があって、大みそかの夕方から1月8日まで、毎日朝夕の祈願法要を合計16座行うんです。
―― つまり、除夜の鐘はそういったさまざまな法務の合間に行ったわけですね。
そうなんです。

除夜の鐘36,000回を達成した翌日。八日堂祈願を成満した時のお檀家さんとの記念写真。
――凄まじいフィジカルとメンタルですが、鐘を撞いている間は何を考えていましたか?
何も考えられなくなりました(笑)
―― 気の遠くなるような回数ですもんね。
でも、途中からお経を唱えながら鐘を撞くことにしました。そうすると気合も入りますし、おなかから声を出すので多少身体も温まります。
―― お檀家さんたちも見守る中での除夜の鐘。事前にお伝えしたのですか?
はい。「1月7日まで鐘を撞きますよ」というと「いいよ、いいよ」と言ってくれましたが、「36,000回撞きます」とお伝えすると、ほぼすべてのお檀家さんが「えっ?」と3度聞き返してきました。
―― ご近所からは、苦情は出ませんでしたか?
それはなかったですね。むしろ監視されていると思うとサボれませんから。近所の人たちも、Threadsをされているようで。
―― 日ごろからお檀家さんや地域の方々とのコミュニケーションを大事にされているからこその反応なのかなと想像します。
そうであればありがたいですね。でも反省会では総代さんたちに「住職のゲリラ案件はおもしろいけど、たまには何もない一年を過ごしたい」って言われました(笑)

総代さんとの慰労会。日ごろの厚い信頼関係がこの一枚に表れている。
―― 日本全国からもたくさんの方々が見法寺にまで駆け付けてくれたのですよね。
そうなんです! これはものすごく嬉しかったです。富山県からお越しになったご夫婦は、故郷である石川県のお寺が能登地震で半壊してしまい、除夜の鐘を撞く場所がなくなったんだそうです。たまたま私のThreadsを見て、「変なことやってるお寺があるぞ、行ってみよう!」と、わざわざ山梨県まで駆け付けて下さいました。
―― すごい! 本当に「もう一度会いたい」と思って足を運んで下さったのですね。SNSでお会いして、次はリアルで、と。
他にも、東京、千葉、埼玉、大阪からという方もおられました。本当にありがたいです。


県内外から、たくさんのThreads民が見法寺まで駆けつけて、除夜の鐘を響かせた。
「お寺のために、命を捨てる」生ける伝説からの金言
―― 今回の『除夜の鐘チャレンジ』ですが、何が小林さんを突き動かしているのですか?
突き詰めると、それはお檀家さんのためです。
―― お檀家さんのため?
はい。お寺はお檀家さんのものであり、それを預からせていただいているのが住職の務めです。私の行動は、失敗も成功も含めて、すべてはお寺の発展のためになると信じるものだけを行っています。お寺の発展は、そのままお檀家さんの豊かさにもつながっていきますからね。
―― 36,000の鐘を撞いたということは、36,000の煩悩に向き合ったとも考えられます。
「いいね」に込められた想いというのはさまざまでしょう。純粋に除夜の鐘の文化を残したいと共感して下さった方もいるでしょうが、ほとんどの方はおもしろ半分や、バズに乗っかった人でしょう。中には「そんなのできるわけない」と思いながらスマホをタップした人もいるでしょうけど、そこをひっくり返したいという想いがありました。

1月7日、36,000回を達成した時のThreadsへの投稿。「除夜の鐘や宗教法人が敵視されるのは全て僧侶の怠慢や驕りです」という言葉が刺さる。
―― 小林さんがアクションを起こすことで、お寺の認知が広がり、何よりお寺に活気が生まれますよね。発想のユニークさ、有言実行を貫くメンタルとフィジカルをすばらしく思います。
私はたぶん、「こうであらねば」というハードルが低い人間なんです。「お寺はこうあるべき」「お坊さんはこうあらねば」、あまりそういう常識を気にしない人間なんです。
―― そういえば、2年前にご自身のYouTubeチャンネルで佐々井秀嶺上人(インド仏教最高指導者の日本人僧侶)と共演されて、長年の憧れだったと。その影響もありますか?
そうですね。佐々井上人も常識を飛び越えて利他に生きる方です。影響を受けている面もありますし、佐々井上人から直々に頂いた言葉を大切にしています。
―― どんな言葉を?
私のYouTubeチャンネルにご出演いただいた時に、「日本の僧侶はダメだ!あなたも家族を捨て、寺を捨て、身一つで仏道を進みなさい」と言われました。「ごめんなさい!私は無理です」とお伝えすると、「お寺を捨てるか、命を捨てるか、どっちにする?」と迫られたのです。
―― 究極の二択ですね。
そこで私は、「命を捨てる」ことにしました。
―― 「命を捨てる」? それはどういう意味ですか?
いまの私は、お寺を捨てるわけにはいきません。縁があって妻と出会い、お寺に入り、子どももいて、お檀家さんもいる。そこで、「お寺を捨てるわけにはいかない。では、命を捨てるとはどういうことだろう」と、真剣に考えました。
―― はい。
私が行きついた結論は、これまでの自分をいったん捨て去って、これまで以上に、世のため人のために生きる人間として蘇ろう、というものです。お寺やお檀家さんのためなら何だってしますし、どこへだって行く。お寺によいものをもたらすのなら顔も晒すし、それが誰かのためになるなら言いにくいことも言う。そう決意したんです。
佐々井秀嶺師と小林さんの共演動画(『見法寺法務チャンネルより』)
―― その意気込みが嘘じゃないということが、これまでのSNSでの発信、除夜の鐘チャレンジ、そしてこのインタビューでも感じられます。
ありがとうございます。
―― 私は、お寺という空間には人を豊かにする宝物があちこちに転がっていると思っています。だからこそ、除夜の鐘という機会を通じて、ひとりでも多くの方にお寺とご縁を結んでほしいものです。
日本全国のお寺で『除夜の鐘チャレンジ』をすれば、除夜の鐘はなくならないはずです。日本人は除夜の鐘を大切にしていることが、今回よく分かりました。だからこそ、常日頃からお寺側の努力が必要です。もしもうちのお寺には鐘がない、というのであれば、なんだっていい。仏教界全体で、世のため人のためになることにチャレンジをし続けたいですね。

指一本で押される「いいね」。 そこには、純粋な共感や応援もあれば、ひやかしや煽り、単なる暇つぶしもあることでしょう。
スマホの画面を流れていくタイムラインは儚いものです。しかしその画面の向こうには、氷点下の寒さに耐え、血肉を奮い立たせて鐘を撞ききった、泥臭い一人の人間のドラマが、たしかにありました。
日夜、SNSを通じて現代を生きる衆生へと、血の通った言葉を投げかけ続ける小林住職。
もし、あなたの指先から生まれたひとつの「いいね」が、見法寺の鐘を響かせ、それがきっかけでこの記事に辿り着いてくれたのなら、SNSの「いいね」ひとつも、除夜の鐘のひと撞きも、等しく仏さまとの壮大なご縁の始まりだったと言えるでしょう。
▶見法寺公式Webサイトはこちら
▶小林正尚さんのThreadsアカウントはこちら
▶小林さんが登壇したH1法話グランプリのレポート記事はこちら
画像提供:見法寺住職 小林正尚さま
取材・構成・文:玉川将人


