Article読み物
前回チャンピオンが語るH1法話グランプリの舞台裏|”もう一度会いたいお坊さん”に会いに行く旅【関本和弘さん~前編】
“もう一度会いたいお坊さん”
ナンバーワンを決める
H1法話グランプリ。
聴衆も、審査員も、
登壇者も
だれ一人経験したことのない
未踏のステージで、みごと
2021年大会の
チャンピオンに輝いた
関本和弘さん。
大阪府寝屋川市の
大念寺にお邪魔して
当日の模様を
前後編に渡って
たっぷりと
ふり返っていただきました。
ひと言目を話し始めた時まで迷っていた
ーー『H1法話グランプリ2023』を目前に控え、ぜひとも前回大会でチャンピオンになられた関本さんにお話を伺いたいと思います。
ありがとうございます。
ーー登壇者も、聴衆も、審査員も、だれもが経験したことのないステージでした。関本さんの出番は2番目。舞台袖で、トップバッターの小林正尚さん(日蓮宗・見法寺)の法話をどう見ていましたか。
わたし自身、めちゃくちゃ緊張していましたね。というのも、小林さんがかなりアッパーテンションの法話をされたでしょ。この流れを利用するべきか、一旦リセットするべきか。わたしの出番になり、ステージの中央まで歩き、法話のひと言目を話し始めた時ですら、まだ迷っていましたからね。
ーー関本さんは開口一番、「先ほどの方があれだけ(テンションを)上げてくださると、とても話しづらい」と仰ってましたが、あれは掴みではなく…
本心でした(笑)
関本さんの法話は、御本尊、そして聴衆への合掌礼拝から始まった。
ーー法話は、そのほとんどがお寺の本堂で行われるものですよね。なら100年会館のステージからは、どのような光景が広がっていましたか?
スポットライトが当たりすぎて、こちらからは客席側が真っ暗で、何も見えないんです。お客さんの反応が分からないというのはちょっと怖かったですね。でも、なんと言いましょうか、波動のようなものを感じるんです。うなずいてはるなとか、ニヤッと笑ってはるなとか。はじめての体験でした。
ーー導入部でクスッと笑いをとり、情景が目に浮かぶようなお檀家さんとのやりとり、そして最後は仏さまの教えへと導いていく。素人ながら、ものすごくすばらしい法話だと感じました。
お師匠さんからは「はじめおかしく、中滔々、終わりしんみり」と教わったものです。他宗派では「はじめ滔々、中おかしく、終わりしんみり」とも言うようですから、私が受け継いだのは、伝統に師匠がアレンジを加えたものだったのかもしれません。
ーー関本さんの中での完成度は?
もともと20分の法話をH1のために10分にまとめたものでした。いくつか抜けがあったものの、9年間で200回以上話し続けている法話でしたから、しっかりとお話しできたのではないかと思っています。
9年間で200回以上喋り続けてきた法話を選んだ理由
ーー9年間で200回ということは、数ある法話の中で十八番を選ばれた、ということだったのですか?
あの法話を選んだのにはいくつか理由があります。まずは10分という制限時間にまとめやすかったこと。老若男女いろんな方が来て下さるであろうH1でだれもがうなずける話だったこと。わたし自身が話し慣れているということ。そしてこの法話は、ある方を目指して作ったもので、特別な思い入れがありました。
ーーそれは、どなたですか?
薬師寺の大谷徹奘執事長です。法話においては、間違いなく私は日本でナンバーワンのお方だと思いますし、大きな影響を受けました。
ーー関本さんの所属は融通念仏宗です。宗派の異なる方ですが、どのような点に影響を受けたのですか?
きっかけは、自坊の近くにある寝屋川市民会館で開かれていた先生の講座です。当時わたしは27歳でした。お寺に生まれたので、いろんな方の法話を聴く機会がありましたが、正直その良さがよく分からなかった。ところが大谷先生のお話は衝撃で、「おもしろくて、生きている話だ」と直感したんです。
ーー具体的にどんなところが衝撃だったのですか?
お経の意味を日常生活の中に落とし込めるように分かりやすく説かれている。そして、純粋に話が上手でおもしろいんですよね。すぐにハマってしまって、年3回行われている講座に毎回足を運ぶようになりました。
ーーその影響が、いまの関本さんの法話にも生きているんですね。
話はそこで終わらないんです。やがて大谷先生にかわいがってもらうようになり、中国やインドにご一緒させていただくだけでなく、薬師寺の仏跡巡礼にご一緒させていただけるようになりました。その移動の際、「こっちで法話しといて、あっちはぼくが話しをするから」と、法話を丸投げしていただくまでになりました。
ーーそれはすごいですね。日本一の説法師の真横で、研鑽を積まれたのですね。
でも、巡礼団の方からするとお目当ては大谷先生、やっぱりそれは悔しいわけです。「どうすれば大谷先生に追いつけるんやろか」「大谷先生よりいいお話しが聴けたよと言わせたいな」そんなことに悩みながら作ったのが、H1で披露した法話だったんです。
ーーあの法話には、そんな歴史があったのですね。
この法話でチャンピオンになれへんのなら、日本一の大谷先生に追いつくことなんてできやしない。そんな意気込みでステージに立ちました。
「きれいな花が咲き誇るのは、目には見えない土の中で、しっかりと根が張っているからです。地面の下で私たちを支えるご先祖さま、仏さま、神さまへの水やりを、どうぞ忘れないで下さいね」(関本さんの法話より)
ーー結果としてチャンピオンとなりましたが、その時の想いは?
もちろん嬉しかったですよ。内心ガッツポーズです(笑)ただ、どちらかというと大会そのものが成功したことが感慨深かったです。他の方の法話も本当にそれぞれ素晴らしかったですし、何よりH1は法話の優劣ではなく、投票を通じて仏縁が広がることを目的としていましたからね。
受賞後のフォトセッション。審査員特別賞を受賞した田中宣照さん(真言宗・西室院)と。
受賞後の評価と批判
ーー受賞後の反響はいかがでしたか?
お檀家さんたちからも祝福の声をいただきました。純粋に嬉しかったですね。あと、いろいろなところから法話や公演のご依頼を頂くようになったこともありがたいことです。H1そのものが宗派を超えたイベントなので、その後も宗派の垣根を超えてご縁が広がっていったことをありがたく感じています。
H1のあと、日本各地から法話や講演の依頼が舞い込んだ。矢田のおかげん養寿寺(愛知県西尾市・浄土宗西山深草派)での法話会の様子。
2021大会のファイナリストである畔柳優世さんのもとに、H1にゆかりのあるお坊さんたちが集まった。
ーー布教師として、より一層の自信がついたのですね。
と言いたいところですが、実際はそればかりでもないんです。
ーーそうなんですか?と言いますと?
スマホでエゴサとかするでしょう。するとね、「結局は先祖の話か」と、批判も書き込まれているんです。
ーーそれは意外です。
でもね、その気持ちは分からなくもないんです。と言うのも、わたしは数年前まで大阪自殺防止センターで電話相談員のボランティアを約10年間続けていました。そしていまは保護司として、仮出所中の若者と向き合う取り組みをしています。そこで出会う多くの人は、この世に生まれたことをなかなか肯定できずにいます。彼らに対して親孝行や先祖供養を説いても、響かないということもたくさんあります。
ーーなるほど。
あの法話はもともと20分のものでした。残りの10分で、根っこは横にも伸びるというお話をするんです。親子や先祖といった縦の関係をつなげられない人でも、友人や周囲の人など、横に向かって根を伸ばし、影響力を及ぼすことだってできるんだと。よい先生、よい友人に出会ったから人生が変わることもある。血のつながりだけではないのです。
ーーそこまで語るには、時間が足りなかったのですね。
限られた時間の中で、もっと伝え方があったかなあと、反省しています。
法話が私たちにもたらせてくれるもの
ーーもうすぐ『H1法話グランプリ2023』が開催されます。お坊さんたちによる法話は、私たちに何をもたらせてくれるのでしょうか。
普段当たり前に思っていることに対して、まったく違った見方もあることに気づけるんじゃないでしょうか。
ーー前回の関本さんのお話でも、枯れるお花と枯れないお花の違いは根っこがあるかないか、というものでした。考えれば当たり前のことですが、普段はそんなことを考えもしませんよね。
そうですね。たとえば「借光眼」ということばがあります。私たちは眼を開けて当たり前のように目の前の光景を見ていますけど、実は光の力を借りるからこそ見ることができているんです。光がなければ、光の助けがなければ、どんなに目を開いても何も見えない。普段そんなこと考えないですよね。自分の力で見ていると感じている方が大半でしょう。
ーー光の力を借りるだなんて、考えたこともなかったですし、「借光眼」ということばもはじめて知りました。
お坊さんは、普段からお経を読んで、法話をして、この世界のことを仏さまの目線で眺めています。だからこそ、法話を聴いて、仏さまの目線を知ることで、より客観的に物事を見通し、なにごとにも謙虚な気持ちにもなれます。
ーー謙虚になると、人間関係も円滑にいき、自分自身も穏やかになれますね。
そうです。そして、普通の人とは違ったものの見方ができるお坊さんだからこそ、気になったこと、疑問に思ったことを、どんどん訊いてみたらいいんです。生きているといろんな悩みや疑問が生じます。それらを全部ぶつけてみたらいいと思います。
ーーそのぶつける相手を、ぜひともH1で見つけてもらえたらいいですね。
はい。H1のステージで語られる法話を聴いて「いい話だったね」で終わるのも、もちろんいいのですが、票を投じたお坊さんに、実際に会いに行く、電話をしてみる、そして話を聴いてもらうことを、おススメします。
後編では、関本さんの僧侶としての歩みを伺います。一躍日本有数の布教師となった関本さんは、20年以上もの期間にわたって、傾聴の取り組みをされています。自死した友人への後悔、自殺防止センターでのボランティア、保護司としての取り組みなどを通じて、話すことと聴くことの双方を追い求める関本さんのモチベーションの源泉をお話しいただきました。
▶H1法話グランプリ公式サイトはこちらから。
▶関本さんのお寺・大念寺のX(旧Twitter)はこちらから。
▶素心『こころね』による2021年大会レポート記事
『762組もの仏縁がつながる日-「H1法話グランプリ2021」現地レポート』
▶『こころね』によるH1法話グランプリ2023特設ページです。大会当日に向けてH1関連の記事を続々配信中!下のバナーをクリックして下さい!(※バナーの訂正:開催日は正しくは2023年12月2日です)
取材・撮影・文 玉川将人