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“推し”のお坊さんから始まる仏さまとのご縁【H1法話グランプリ2023】森圭介さんインタビュー(後編)
2023年12月2日。
奈良の地で
1500組もの仏縁が
結ばれます。
そして、スマホ越しに
数えきれない数の仏縁が
紡がれていきます。
法話とは
こころの奥底に響く
仏さまのことば。
“推し”のお坊さんとの出会いが
仏さまとのつながりの
第一歩になるはずです。
大会実行委員長
森圭介さんの
熱意あふれるインタビュー
後編です。
仏教のエンタメ性を最大限に引き出す試み
ー 前編からの引き続きになりますが、ステージ演出を任されているという森さんが「カッコよさ」にこだわる理由をもう少し深くお聞きしたいです。
子どもたちがなりたいものって、みんな「カッコいい」ものじゃないですか。プロ野球選手もミュージシャンも。同じように、「お坊さんだって、カッコいいんだぞ」と思ってもらえる部分が必ずあるんじゃないかと思っていまして。ものすごく個人的なことを言うと、息子が憧れるようなステージを作りたいんです。「お坊さんもカッコええやん、オレもなりたい」と。
ー 森さんの息子さんがそう思われるなら、きっと他にもそう思ってくれる子どもたちは少なくない。それは、前編でもお話されていた、仏教のすそ野が広がることにもつながりますね。
仰る通りです。でも、いつも議論になるのは、エンタメと信仰、このバランスをどう保つのかという問題なんです。
取材は、森さんの自坊である阿弥陀寺(奈良市)にて。
ー H1に対しても、エンタメに寄りすぎているといった批判はありますか?
ありますあります。でも、まずは仏教に触れていただく、そういう世界があるんだということを知ってもらうきっかけとして、カッコいいステージ、投票という参加行動など、思わず見たくなる、聴きたくなる仕掛けがあってもいいのではと思っています。
ー 仏教が2500年続いているのには、その中に遊びやエンタメの要素があるから、という声も聞きますよね。
たとえば落語や講談などの日本の話芸も、もとは仏教によるお説教だったそうです。今大会では2名の僧侶が楽器を持って登壇される予定ですが、仏教と音楽も親和性が高いです。
ー 『マイ遍路』の著者・白川密成さん(四国札所第57番 栄福寺住職)を取材しましたが、お遍路にも遊びの要素があること、信仰を支える上でエンタメの要素が大事であることを力説されていました。
信仰とエンタメって、簡単に切り分けられるものじゃないと思っていて、宗教の中にもエンタメ性はありますし、エンタメの中にも宗教性がある。しかも法話って仏教の営みそのものじゃないですか。なにか別ジャンルのことを持ち込むんじゃなくて、仏教の中にあるエンタメ性を最大限に引き出す、そんなつもりでやっています。
2021年大会でグランプリを受賞した関本和弘師(大阪府・大念寺副住職)。ホロっとした笑いと、やさしくも力強い聴衆への投げかけによる法話は、まさにエンタメと信仰の絶妙なバランスそのものだった。
審査員とのやりとりも見どころ
― 審査員の先生による講評も、H1法話グランプリの見どころですよね。
仰る通りです。本当に豪華な先生方のおかげで、H1がより魅力的なものになりました。特に、釋徹宗さん(如来寺住職・相愛大学学長)に大会顧問と審査委員長を引き受けていただいたのが、H1にとっての大きな転機だったと思います。
ー と言いますと?
ここには、大きくふたつの意義があると思います。ひとつは、H1にはとてもすばらしい審査員の先生にご協力いただいていますが、そのほとんどが、釋先生とのつながりによるものです。そしてもうひとつは、釋先生の講評ってものすごく厳しいんですけど、それはやさしさの裏返しであって、ステージ上のお坊さんを守るためなのではないかと、感じています。
畔柳優世師(愛知県・養寿寺副住職)への釋徹宗氏の講評は、現代における仏教の意義を突く、2021年大会のハイライトとも言える瞬間だった。
ー 興味深いです。もっと具体的に伺えますか。
H1って、やっぱりいまでも賛否両論が寄せられている面もあります。「仏教をエンタメにするな」とか「法話に優劣をつけるな」とか。そんな中でぼくたちが一番避けたいのは、一生懸命に話した法話によって、お坊さんたちが損をしたり、叩かれたりすること。だって、覚悟と勇気をもってエントリーして下さっているわけですから、ぼくらはそんなお坊さんたちを絶対に守らなければならない。そこで釋先生の厳しい講評なんですけど、あれって、突っ込まれたり叩かれたりする可能性を、釋先生自らが先んじて、全部つぶしていかれているようなものなんです。
ー なるほど。あえて厳しいツッコミを入れられていると。
ちょっと泣きそうになりましたもんね、あのやさしさに。あそこまで突っ込まれると、他の人はもう何も言えないなという…。
ー 深いですね。私は2021大会の時に会場にいましたけれど、釋先生の講評は「きびしいな~」と思って聞いていました。
あれは、やさしさの裏返しなんです。そういう意味でもH1法話グランプリは、登壇者の法話に加えて、そのあとの審査員の先生の講評や、お坊さんたちとのやりとりも目が離せません。
"推し”のお坊さんが、あなたにもたらせてくれるもの
ー 最後に、H1法話グランプリ2023の見どころを、森さんなりのおことばでお聞かせください。
回を重ねるごとに、僧侶の方々のモチベーションが上がっているのをすごく感じます。前回とは異なった8名の法話をお見せできるのではないかと、早くもワクワクしています。前回はコロナ禍ということもあって、1500名を収容できるところを半数の750名の入場に限らせていただきましたが、今回は座席の制限はありません。まだまだ若干空きがあるようですので、ご興味がある方はお早めにチケットを買っていただきたいです。
― 今大会は、YouTubeの無料生配信に加えて、耳の不自由な方のためにAIによる自動字幕の取り組みもされるのですよね?
ベルギー人のプログラマーであるスティン・デ・サーガ氏とのご縁があり、仏教用語に特化した自動音声認識AIの実装にトライしています。間に合うか間に合わないか、どれくらいの精度で翻訳できるか、いまの段階では分からないのですが、どうぞ大きな心で見守っていただければと思います。
奈良まで駆け付けられない方は、ぜひともスマホで、パソコンで、お坊さんの法話に耳を傾けてほしい。
ー お坊さんの法話にふれることで、どんなものがもたらされるでしょうか?
仏さまという大きな存在、仏教という大きな教えがあることを知り、敬うことで、自分自身がもっと謙虚になれます。それはつまり、自分自身がちっぽけな存在であることを知ることにつながりますし、自分がちっぽけだと知ることで、余計なことで悩んだり苦しんだりせずに済みます。
ー 謙虚な方が、人間関係も円滑になりますよね。
そうなんです。あと、仏教というのは目に見えない「心」を見つめる営みです。いまはどんな情報だってスマホひとつで手に入る。そんな時代だからこそ、目に見えないものの想像力が欠落しがちです。心という、目に見えない、手に触れることのできないものとの向き合い方のヒントが、きっとお坊さんの法話の中に隠されているはずです。
ー 『こころね』は、こころの奥底で響く音に耳を傾けるメディアでありたいと思っています。『こころね』とH1の想いが同じことを嬉しく思いますし、仏さまとのご縁のきっかけとして、H1法話グランプリを楽しんでいただきたいですね。
ありがとうございます。土曜日の午後、宗派を超えた8名のお坊さんの法話に耳を傾けて、あなたにあった”推し”のお坊さんが見つかればいいなと思います。そのご縁をきっかけにお釈迦さまの教えに触れることで、より幸せを感じながら日々を暮らしていけるはずです。
「もう一度あいたいお坊さん」ナンバーワンを決める『H1法話グランプリ』は、12月2日午後1時より、なら100年会館で開催されます。
どうぞ、奈良の会場まで足を運んで、あなたの”推し”のお坊さんを探してみてください。会場まで駆け付けられない方もはぜひともYouTube動画でご視聴を。
素心『こころね』は、H1法話グランプリを応援します。
▶H1法話グランプリ公式サイトはこちらから。
▶森さんが住職を務める阿弥陀寺(奈良市)の公式ウェブサイトはこちらから。
▶素心『こころね』による2021年大会レポート記事
『762組もの仏縁がつながる日-「H1法話グランプリ2021」現地レポート』
取材・撮影・文 玉川将人