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2021.08.13

リアルでもリモートでもつながることが喜ばしい-コロナ禍のお盆参り完全密着取材(前編)

リアルでもリモートでもつながることが喜ばしい-コロナ禍のお盆参り完全密着取材(前編)

本日8月13日から、いよいよお盆です。
夏の風物詩といえばお坊さんのお盆参り。
檀家さんの自宅を1軒ずつまわり
お仏壇の前で読経をし、
その家のご先祖様を供養します。

お盆参りの裏側って
どうなっているんだろう?

そう思ったこころねは、
お坊さんのお盆参りを完全密着取材。
趣旨に賛同して下さったのは
雲松寺うんしょうじの高島正哲しょうてつ住職です。

お寺とお檀家さんの心あたたまるひと時
夏の市中を走り回るお坊さんの裏側
そして、コロナ対策に頭を悩ませるお寺の姿
そのドキュメントをお届けします。

大雨に見舞われた今年のお盆
雨と汗に濡れながらお参りするお坊さんに
ご先祖様とのひと時を過ごす全ての人に
この記事を捧げます。

 

そもそもお盆参りとは?

まずは、そもそもお盆参りって何?という話から。

お盆参りとは、お盆の時期にお寺が檀家の家を1軒1軒訪問することです。仏壇の前でお経を唱えてその家の先祖を供養します。

お盆はたったの数日間。その間に何十、何百という檀家を回らなければなりません。1軒あたりの時間は10分から15分程度で、1日に数十件の家を分刻みでお参りしていきます。まさにお坊さんたちの繁忙期。

お盆には、仏壇とは別にお盆専用の祭壇を設けます。これを「盆棚」や「精霊棚」などと呼ぶことから、お盆参りのことを「棚経参り」「棚経」などとも呼びます。

精霊棚の飾り方は全国各地によってさまざまです。民俗学者の新谷尚紀さんによると、次の4つに大別されると言われています(参考文献『民俗小辞典-死と葬送』)。

(1)先祖は仏間に、新仏は縁側や庭先にそれぞれ棚を作る。
(2)先祖も新仏も縁側や庭先に棚を作る
(3)仏間に棚を作り、仏壇から位牌を取り出して並べる
(4)盆棚を作らず、仏壇だけでお祀りする

素心も毎年に夏になると、盆棚に飾る「精霊堂」の配達が殺到します。播州地方においては、加古川市や高砂市などの東播地域では(3)ですが、姫路以西の地域では(4)が一般的、つまりピタッと盆棚を見かけないのです。

「精霊堂」の一例。

その由来は不明ですが、市を境にしてこうも風習が異なるのは「謎だねえ」と、素心社内でもコーヒーブレイクの時の話題に上るとか上らないとか。

姫路市内では盆棚を飾る風習があまり見られず、お仏壇の中でご先祖様を供養します。

いずれにせよ、お盆はご先祖様の霊をわが家にお招きし、死者も生者も、家族や親戚も一堂に集まって絆やつながりを再確認する行事です。そこに供養の専門家であるお坊さんに読経してもらって、「今年もきちんと供養してもらったね。安心安心」となるわけです。

お盆参りのご案内 コロナ禍で頭を悩ますお坊さん

お寺のお盆は、お参りのご案内から始まります。8月盆の兵庫県では7月からとりかかるところが多いようです。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、お盆参りの光景は一変します。

コロナ禍元年とも言える2020年は、三密の状況を避け、多くのお寺がお盆参りを断念。苦肉の策として、住職が本堂でお勤めしたり、またはその模様をZoomやlineなどのコミュニケーションアプリを用いてリモート勤行に挑戦したところも数多くあります。

「新型コロナウイルスの感染拡大はあってはなりませんが、一方でお盆参りはお寺になかなか用のないお檀家さんと年に一度必ずお会いできる機会。電話やネットよりもやっぱり直にお会いしたいですよね」と、雲松寺の高島正哲住職(姫路市・黄檗宗)は、その複雑な胸中を語ります。

雲松寺の高島正哲住職

雲松寺では、

●ご自宅へのお盆参り
●電話でのお勤め(リモート法要)
●本堂でのお勤め(檀家が来寺する)

の中から選んでもらうようにしました。「コロナ禍への考え方は人それぞれ。選択肢を設けてお檀家さんに寄り添うことを意識しました」とのこと。

割合は、お盆参りが4割、リモート勤行が3割、本堂でのお勤めが3割と、全体の7割はお檀家さんと直に顔を合わせてお勤めができたようです。

雲松寺が檀家に送付したお盆参りの案内状。返信用はがきで、檀家1軒1軒の意向を確認した。

午前中は本堂でのお勤め&リモート勤行

例年であれば、朝の7時や8時という早い時間からお盆参りは始まりますが、2021年の雲松寺では午前中に本堂でのお勤め、午後にお檀家さんへのお参りとしました。

リモート勤行では、時間になると住職からお檀家さんへと電話。「もしもし〜。◯◯さぁ〜ん」「おはようございます。お世話になります」というやりとりがスマホのスピーカーから流れ、本堂に響き渡ります。

スマホの向こうのお檀家さんに優しく語り掛ける高島さん。

「元気にされてますか〜?』
「はい。おかげさまで元気にさせてもらってます」
「じゃあ、お仏壇のローソクとお線香をつけてくださいね〜」
「もうとうに準備万端ですよ〜(笑)」

電話越しでは物足りないかと思っていたものの、意外にもほんわかしたやりとりが見られて、心が通じ合っているのだなと感じました。

そのことを高島さんに伝えると、「電話越しでもお盆の読経を希望するということは、それだけ供養をしなきゃという思いがあるということ。お寺としてはとっても嬉しいことです」と話します。

お参りの間にスマホで予定を確認する高島さん。

スマホの中には当日の予定がびっしり。

リモート勤行を希望する人も、その理由はさまざまです。「面倒くさいから、電話で済ませとけ」というネガティブな理由が多いのかなと思いきや、意外にもそうではないそうです。

「純粋にコロナがこわいという方はもちろん、私たちへの気遣いからリモートにされる方もいます。『和尚さんお忙しいでしょ。電話でええで』『わしらはワクチン打ったけど、若い人らはまだまだ打てへん。和尚さんに何かがあったら申し訳ない』とか言って下さったり。本当にその心配りがありがたいです」

境内にお墓を持つ人の来寺も目立ちます。お参りの人からも「せっかくの年に一度の機会。電話とかやなくても、わしらがお寺まで来たら済む話や」「やっぱり目の前で和尚に拝んでいる姿を見届けることでご先祖様も喜んでくれるような気がします」などの声が聞かれました。

取材日はあいにくの雨。それでもたくさんの方がお墓や本堂にお参りされました。

広い本堂の窓を開け放ち、焼香台にはアルコールスプレーも置き、対策もバッチリ。本堂の中に入るのも気がひけるという人のために、階段下にテントを設けて外から拝める様にもしました。とにかくお檀家さんに寄り添おうと、さまざまな選択肢を用意しているお寺の努力が見られます。

焼香台にはアルコールスプレー

屋外でのお参りにも対応できるようテントも設置。(画像提供・雲松寺)

夫婦の一生懸命なうしろ姿

正解が分からない中、「これならお寺の想いがお檀家さんに届くかな」と模索をしながらのお盆参り。雲松寺の場合、住職夫婦の一生懸命なうしろ姿を、きちんとお檀家さんも見られているようです。

「いつも優しくて一生懸命なおふたりで、本当に心強い」
「素敵な人柄で、お参りのたびに癒される」

取材中にも、複数の方からこうした声がありました。

「私たちも、コロナをきっかけにもっとお檀家さんが離れるのではと不安だった」と妻の朋子さん。しかし実際には案内はがきの返信率は98%を誇ったのだそうです。「正直、お寺に無関心な人がもっといるのではと思ってました。このお寺はお檀家さんに支えられているんだなと、本当に実感しました」と、感謝の想いを口にします。

コロナ禍をどう乗り切るべきかお寺が悩む一方で、お檀家さんの心配りがお寺を支えている。支えあい、助け合いの精神が、きっと何百年にわたるお寺文化を今日までつないできたのだろうと考えさせられました。「リアルでも、リモートでも、まずはつながりあうことが大切で、喜ばしいんです」という高島さんの言葉が印象的です。

お盆時期は住職の奥さんも右往左往。お墓参りのお檀家さんへの対応。いただいたお供え物の仕分け。それに加えて住職のお盆参りのサポート。

お墓参りの人たちの対応に追われる朋子さん。

特に例年は早朝に出発した住職のいないお寺を一人で守ります。さらには昼に休憩の住職の着替えや昼食の準備まで。ちなみにこの日はなんとハヤシライスの用意。なんと私の分まで。忙しい中、手をわずらわせてしまい、本当にごめんさない&めちゃ美味い!

愛妻ハヤシに思わず笑顔がこぼれる高島さん。

こうして午前中のお勤めをお寺で終えた高島さん。午後はいよいよお檀家さんの家にお参りです。雨の中のお盆参りは、後編でお届けします。


構成・撮影・文 玉川将人

 

 

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