こころね

星に願いを。満点の星空の下で行われる神仏習合の護摩供養「常光寺の七夕星祭」

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星の都・さよう
常光寺は「星の道場」として
毎年8月7日に
七夕星祭を行います。

夏の夕暮れ
ひぐらしや鳥の鳴き声
夜を告げる風が吹き抜ける中
厳かに響く神道祝詞
そして、真言密教の護摩修法

祈願の先には
星の王様・妙見菩薩
全国的にも珍しい
神仏習合の護摩供養の魅力を
お届けいたします。

星の道場・常光寺は、星の都を供養するお寺

岡山県との県境に隣接する佐用町は、自然がとても豊かで、「星の都」と呼ばれるほどに美しい夜空が広がります。環境庁から「星空の街」の認定も受け、兵庫県立大学西はりま天文台には世界最大級の大型反射式天体望遠鏡「なゆた」があり、日本中の天文ファンが駆けつけます。

天体や宇宙との結びつきが感じられるこの町で、わがお寺を「星の道場」としているのが、常光寺の樫本覚隆かしもとかくりゅうさん。常光寺のご本尊は薬師如来ですが、佐用町全体を守って下さる仏さまとして、北極星を尊格化した妙見菩薩をも同時にお祀りしています。

そして、常光寺の一大イベントが、毎年8月7日に行われる『常光寺七夕星祭』。関西随一のパワースポットである星田妙見宮(大阪府交野市)の神職を招いて行われる神仏習合の護摩供養は全国的にも大変珍しく、仏教ファン必見の法要です。

樫本さんに詳しく話を伺いました。

常光寺副住職・樫本覚隆さん

‐ 今年(2021年)で8回目となる七夕星祭。神仏習合の護摩供養は大変珍しいと思うのですが、どのような経緯ではじまったのですか?

常光寺も、もとは地域のお檀家さんで成り立つよくあるお寺でした。それを「星の道場」として位置づけていこうとしたのがそもそもの始まりです。

‐ 星の道場。具体的にはどのようなことをされているのですか。

北極星を尊格化した妙見菩薩さまをお祀りしています。また、一般の方でも参加できるものとして、年に一度の「七夕星祭」、月に一度の瞑想会「月輪観がちりんかん」、密教占星術による鑑定などを行っています。

‐ お寺を星の道場としていこうとされたのには、どんな想いがあったのですか?

お寺はそもそもお檀家さんのためにあるのですが、それと同時に、もっと開かれたお寺にしていきたいなあという想いがありました。そして佐用は星の町です。私自身もこの町の星空を見て育ってきましたし、高野山に修行に上って真言密教を学ぶ中で、北斗護摩や妙見護摩などといった「星供ほしく」という修法があることを知ります。真言密教と天体とが、私の中でつながったのです。

七夕星祭では、護摩壇を前後に2つ並べて供養が行われる(画像提供:星の道場・常光寺)

‐ なるほど。

そして、北極星を尊格化したのが妙見菩薩さま。すべての星は北極星を中心にして運行しています。北極星は古代中国では「天帝」と崇められるほどに人々の信仰を集めていました。

‐ まさに、「星に願いを」ですね。

おもしろいのは、佐用町という町が昔から天体とのかかわりが強いということ。佐用、上月、三日月、南光の4つの町が合併して、いまの佐用町がありますが、すべての町名に「月」や「光」の文字が見られるのはなんとも興味深い。

‐ ほんとですね⁉

佐用という名称も「五月夜(さよ)」から来ていると、『播磨国風土記』に書かれているそうです。

‐ 西はりま天文台があるのも、うなづけますね。

天文台のある大撫山は、常光寺の本堂から真正面に見据えた先にあります。そして地図で見たら分かると思いますが、常光寺は佐用町の中心に位置します。こうしたいくつかの事柄が私の中でつながり、星の都である佐用町全体を供養するお寺にしていこうと思ったのです。

ひと月遅れが、本当の七夕

‐ 七夕星祭は毎年8月7日に開催します。7月7日ではないのですか?

七夕は本来7月7日ですが、気を付けなければならないのは、明治になって旧暦(太陰暦)から新暦(太陽暦)に暦が改変されたということ。いまでこそ七夕は梅雨時期ですが、かつての7月7日は、まさに今ごろの季節でした。(※旧暦の7月7日はその年によって日にちが異なります。ちなみに2012年の旧暦の7月7日は、新暦の8月14日にあたります。)

‐ お盆と同じ、”月遅れ”の七夕なのですね。

そうです。8月7日に行うことで、本来の七夕の季節感を味わうことができますし、夏休みのお子さんもお寺に来やすいかなと。

‐ なるほどです。

あまり知られていませんが、七夕とお盆にはたくさんの関連があります。「七夕」と書いて「たなばた」と読むのは、毎年7月7日にお盆の精霊棚しょうりょうだなを作ったからだと言われています。そしてそこには「五色幡ごしきばた」と呼ばれる5色の紙でできた幡を垂らします。

‐ 精霊棚しょうりょうだな五色幡ごしきばたで「たなばた」

お願いごとを書く五色の短冊もここから来ているという説がありますね。また、年に一度会えるという意味では、織姫と彦星、私たちとご先祖さまとの関係に似ていますよね。中国伝来の七夕伝説と、日本古来の先祖供養があいまって、七夕は庶民の間で営まれてきました。

‐ むかしの人たちは、まさにいまごろの季節に夜空を見上げ、織姫と彦星の出会いを語っていたのですね。

はい。そしてこの季節にお盆の準備をして、ご先祖様をお迎えしたのです。

神仏習合であることの意味

‐ 星の都の佐用町で、星に祈りを込める護摩供養を行うのは分かるのですが、なぜ神仏習合にこだわるのですか?

きっかけは星田妙見宮さまとの出会いです。森田龍僊りゅうせん先生という、密教占星法の大家がおられまして、その方が大阪府交野市の星田出身だったのです。先生の本の中に星田妙見宮の文字を見かけ、常光寺で団体参拝をしたのです。

『こころね』でも取り上げた星田妙見宮への取材記事は、樫本さんによるご縁つなぎで実現しました。「空から星が降ってきた神仏習合の神社-大阪・星田妙見宮をたずねて(前編)

星田妙見宮さんでも神仏習合式の祭礼が行われていることから、ぜひとも常光寺の七夕星祭に来てもらおうと。2017年から星田さんを招いての、神仏習合の護摩供養といういまの形ができあがりました。

‐ 佐々木宮司は「神道や仏教など関係なく、古来から受け継がれている方法を大事にする」と言われてました。考えが合致していたのでは?

本当にそうですね。七夕をいまの8月に行うのと同じで、なるべく古くから行われてきた方法を採用したいと思いました。神仏が分離したのは明治以降からのこと。それまでは当たり前のように神仏は習合していました。神仏をひとつにすることで、きっとオリジナルで、心に残る護摩供養ができるのではないかと期待しています。

樫本さんの背後で祝詞を読み上げる星田妙見宮の佐々木久裕宮司。(画像提供:星の道場・常光寺)

‐ 私も昨年参拝させていただきましたが、古来の雰囲気というか、無意識の古層に響く感じがしました。

それは嬉しいですね。

‐ 本当に独特で、幻想的で、火の力、読経と祝詞の力、太鼓などの鳴り物の力が合わさって、ものすごい迫力です。しかも護摩の火や煙が昇る先には満天の星空。圧巻でした。

ありがとうございます。

‐ 密教の儀式にどのように神道を絡めていったのですか?

七夕星祭のメインはあくまでも真言密教の護摩供養です。普段はそこで仏式の表白ひょうひゃく(導師が法会や修法の趣旨を読み上げる文のこと)や祈願文きがんもん(心の中の願望を仏さまに読み上げる文)を読むのですが、そこを神道の祝詞にしました。そして御払いの儀式。この2点を星田妙見宮さんに担ってもらっています。

読経と祝詞の入り乱れる護摩供養。圧巻の迫力です(画像提供:星の道場・常光寺)

‐ 神仏習合の法要って、珍しいですよね。

そうですね。でも神仏習合の名残って、本当にいろいろなところに見られます。高野山には明神さまが祀られているし、この常光寺の中にも八幡神社があります。

‐ そうでしたか。

神主とお坊さんが一緒にいる風景はすごい素敵だと思います。その条件に適うパートナーとして、星田妙見宮さんならいけるんじゃないかなと。私、星田妙見宮さんにお参りする前から、「星田さんと何かできるんじゃないかな」とずっと思ってましたからね。

‐ すごい!まさに、星への願いが叶ったのですね。

はい。

‐ 実際に、星田妙見宮さんとのコラボから、七夕星祭も軌道に乗ったと聞きました。

それまでは、お参りの人よりもお坊さんの人数の方が多いこともありました(笑)。星田さんもそうですし、須磨寺の小池陽人さんに法話をしていただいたこともありますし、多くの方のお力のおかげで、なんとかここまで継続できています。

常光寺境内の八幡神社

驚きの無料接待はお寺からのおもてなし

‐ 七夕星祭では、さまざまなお接待や催し物が行われていますよね。

はい。昨年はまねき食品さんによる「えきそば」のお接待、そのほかにもビールやジュースなどの飲み物、唐揚げなどのお接待もしています。もちろんすべて無料です。かつては子どもたちが楽しんでもらうヨーヨーすくいやマジックショーなども行ったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、一部とりやめにしたものもあります。

昨年無料でふるまわれた播州のソウルフード「えきそば」(画像提供:星の道場・常光寺)

‐ すべてお寺からの出資。赤字ではないのですか?

そのへんは、まあ(笑)。でも仏教には「四摂ししょうの法」というものがあるんです。「布施ふせ」「愛語あいご」「利行りぎょう」「同事どうじ」。これらを七夕星祭の中に落とし込んでいます。

‐ 聞きなれないことばです。ひとつずつ教えてもらえますか?

「布施」は施しのことです。今の時代ではお坊さんへのお金を包んだものが布施と言われていますが、お寺から参拝者へのお布施もあるわけです。無料接待は、まさに布施の実践です。

‐ なるほどです。

コロナ禍までは縁日も盛大に行われていた(画像提供:星の道場・常光寺)

そして「愛語」。にこにこと人を和ませることです。常光寺の七夕星祭では、毎年「さよ姫」として女性のスタッフにおもてなしをしてもらいます。

会場を彩る「さよ姫」たち(画像提供:星の道場・常光寺)

「利行」とは、いわゆるご利益。「心の荷が下りた」「気分がスッキリした」「お願いごとが叶った」常光寺の場合、護摩供養がそれにあたります。神仏習合の法要に参列してもらうことできっと気が晴れ、心が洗われます。

‐ 実際に「護摩木」にはお参りの方のお願い事が書かれますもんね。

はい。そして最後が「同事」。これは、同じ時間、同じ場所に集まったもの同士が共感することです。泣く人がいれば一緒に泣く、笑う人がいれば一緒に笑う。楽しそうな人もいれば、悩みの消滅を願ってお参りに来る人もいる。それぞれの人に寄り添える法要でありたいなと思います。

‐ はい。

日本の仏教は大乗仏教です。自分だけではなく、ご縁があるすべての人の救いを目指しています。七夕星祭がその入り口となれれば嬉しいですね。

笑顔でインタビューに応じる樫本さん

 

混迷の時代だからこそ、星に願いを

‐ 最後に、この記事を読んでくださっている読者の方々にひとことお願いします。

妙見菩薩さまは個人の祈願を聞いてくださる仏さまですが、もっと広く、もっと大きく、国家単位の祈りを捧げる対象でもあります。『妙見菩薩陀羅尼経』というお経の中に「守護国土」や「疫病退散」などの文言も見られます。新型コロナウイルスによって、先行きの見えない日々が続くからこそ、個人の祈り、そして社会の祈りを捧げることに意味があると思います。

‐ 屋外での夜の護摩供養。本当に幻想的で、迫力満点で、心が洗われます。

空を見上げればきれいな星が瞬いています。私は、星の都の佐用町で、七夕の季節に、妙見菩薩さまに向かって護摩供養できることに喜びを感じています。だからこそ、ひとりでも多くの方にお参りいただき、その喜びを分かち合いたいなと思います。

護摩供養のあと、星空法話を行う樫本さん。


▶第8回常光寺七夕星祭は、8月7日(土)17時より行われます。詳しい情報は公式Facebookページから

▶樫本さんとともに伺った星田妙見宮の取材記事はこちらから。

(前編)「空から星が降ってきた神仏習合の神社-大阪・星田妙見宮をたずねて

(後編)「宮司が語る神社再興秘話。すべてを投げ打って妙見さまに心血を注いだ40年-大阪・星田妙見宮をたずねて


構成・文 玉川将人
撮影 西内一志