こころね

葬式仏教から福祉仏教への挑戦ー文化時報社代表・小野木康雄さんインタビュー

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新聞といえば、
事件やニュースを報じて
紙にして届けられるものです。

ところが、
紙面づくりだけではなく
社会と仏教をつなごうと
意欲的にとり組む新聞があります。
宗教専門紙「文化時報」です。

2023年で創刊100年となる
いわば仏教界の業界紙が
2020年から「福祉仏教入門講座」をスタート。

10月10日の第2期開講を前に
代表の小野木康雄さんに
たっぷりと、お話をうかがいました。

医療も介護も教育も、みんなお寺の中にあった

ー 今日はよろしくお願いいたします。この日を楽しみにしていました。

あはは。そうですか。

ー 福祉の現場でこそ仏教の力が発揮できるのかと、その可能性をお伺いしたいです。

ありがとうございます。そもそも福祉と呼ばれるものは仏教から始まっていますからね。医療も、介護も、教育も、もちろん宗教も、昔はすべてお寺の中にありました。

ー へえ。

聖徳太子が創られた大阪・四天王寺には「四箇院の制」というものがあって、いまで言うところの寺院、病院、薬局、介護施設がひとつのお寺に中にありましたからね。それぞれ敬田院、施薬院、療病院、悲田院と呼ばれていました。

四天王寺は、いまでも「四箇院の制」の理念のもと、病院、介護施設、さらには保育園や学校の運営を行っている。

ー そうですか。

つまり、聖徳太子の時代から福祉仏教はあったわけです。

ー となると、文化時報さんの取り組みは原点回帰ですね。

そうです。葬式仏教ももちろん大事ですが、その手前の医療や福祉の現場でお坊さんが活躍できる可能性は充分にある。そこからお檀家さんや人々に寄り添っていこうよというのが、福祉仏教入門講座の根幹です。

講座で学べること、役立つこと

ー 具体的に講座の内容について伺っていきます。講座ではどんなことを学べるのですか?

主に、成年後見制度の仕組みを知り、福祉、医療従事者や士業など、さまざまな専門家と協働する方法を身につけます。全7回のオンライン講義で、それぞれの分野の専門家にご登壇いただきます。

― 成年後見人とは、障害や認知症などで判断能力が不十分な人に代わって財産管理や契約事を行える人のことですよね?

はい。

文化時報社代表・小野木康雄さん

ー お檀家さんの中に、一人暮らしの高齢者がいるという声は、実にたくさん聞かれます。

はい。

― たとえばお檀家さんの中に一人暮らしの方や認知症の方がいた場合、お坊さんが成年後見人となってケアできるのですか?

それは、結構難しいですね。

― おお。なぜですか?

成年後見人の仕事は見守りだけでなく財産管理もあります。法事や葬儀の費用もお坊さんがその方の財布から出すのかとなると、利益相反になりかねないですからね。

― なるほど。

お坊さんが成年後見制度の知識をちゃんと身につけた上で、信頼できる専門家とおつなぎする、というのが現実的です。

ー はい。

そして、後見人の方ではケアできない部分、心の部分や本音の部分、このあたりをお坊さんにケアしてもらうというのが理想ではないでしょうか。

― 信頼できるお坊さんがそばにいてくれることで、安心感につながるのですね。

ええ。福祉職にもいろいろありますし、士業の仕事もいろいろある。チームとしてたくさんの方と連携しながらその方をケアするには、共通言語がどうしても必要になります。だからこそ専門知識を身につけておくことが、お檀家さんを手厚くケアできるのです。

6人のプロフェッショナル

― 全7回の講義を6名のプロフェッショナルが登壇されるようです。具体的に講師の方々をご紹介いただけますか?

はい。第1講と第7講は三浦紀夫さん。 百貨店で仏事相談員を10年間勤めた際に「医療・介護と仏教の連携」を感じ、東本願寺で得度をされた方です。その後、宗派を超えた仏教をベースに生老病死のさまざまなケア活動に取り組む福祉団体「ビハーラ21」の活動に参画。 上智大学や花園大学でも講師も勤められていて、この福祉仏教講座の発起人でもあります。

三浦紀夫さん(画像提供:文化時報社)

― 大谷派の僧侶が、キリスト系の上智大学と、臨済宗系の花園大学で教鞭をとるなんて、まさに超宗派!

はい。

ー 発起人と言われましたが、この講座はどういう経緯で立ち上がったのですか?

もともと取材などを通じてお互いに知り合いでした。三浦さんはずっと「葬式仏教から福祉仏教へ」を広める活動をしてたのですが、ある時「ちょっと協力してもらえへん?」とご相談をいただきました。文化時報が音頭をとることでより超宗派で取り組めるのではとの想いがあったようです。

ー なるほど。

一方で私の方も、文化時報を業界紙から卒業させたいと思っていました。

― お坊さんだけでなく、広くたくさんの人に読んでもらえる紙面づくりですか?

はい。

ー そこでお互いの考えが一致したんですね。

はい。そしてもうひとりのコアメンバーが、第2講を務めていただく藤井奈緒さん。一般社団法人「親なきあと」相談室関西ネットワークの代表理事です。

藤井奈緒さん(画像提供:文化時報社)

ー 親なきあと?

はい。藤井さんはご自身も重度の知的障がい者の長女と、健常児の次女を持たれています。親が亡くなったあとに、次女一人に長女の世話を引き受けさせることになるかもしれない状況に危機感を抱き、法的な備えについての勉強を始められたそうです。

ー なるほど。障がい者の方の「親なきあと」ですか。

はい。八尾市の教育委員も務められ、講演実績も多数ある方です。三浦さんと藤井さんには福祉の現場で僧侶がどういう役割を担えるかについて語っていただきます。

ー はい。

そして、第3講と第4講では、成年後見制度について詳しく取り上げます。

― ここからいよいよ具体的な知識のお勉強ですね。

はい。後見制度には、自分が決めた後見人と契約を交わす「任意後見」と、家庭裁判所に後見人を決めてもらう「法定後見」があるんです。

ー へえ。

それぞれの専門家をお招きします。

第3講を務めていただくのは竹村哲也さん。任意後見についてお話しいただきます。NPO法人「障がい者・高齢者市民後見STEP」(吹田市)の代表理事です。制度に詳しく、実務経験も豊富で、約20名のスタッフを束ねられている方です。

そして第4講では服部豊さんに法定後見についてお話いただきます。「市民後見センターきょうと」は京都では老舗の支援団体で、そこに在籍される後見制度のプロです。

 

講座配信の様子(画像提供:文化時報社)

ー はい。

第5講と第6講では、僧侶が多職種の人たちとどうやって連携していくのかを、現場に携わる方の声としてお話しいただきます。

― 医療現場や福祉現場の実態や声も聞けるのですね。

はい。第5講は木村賢普さん。茨木市にある「デイサービス八重」を運営されています。もとは病院のリハビリ施設の責任者だったのですが、その病院が急に倒産してしまい、スタッフも利用者も路頭に迷っているところを「みんなでやろうや!」と音頭を取り、起業されたそうです。

木村賢普さん(画像提供:文化時報社)

ー すごい!

高齢者の運動機能に関して造詣が深いのが強みです。さらには高齢者介護の専門家でありながら、お坊さんの学びの場にも積極的に参加されています。

ー そうですか。

身近な福祉職の方だけでなく、薬剤師、医療者、お坊さんをはじめとする宗教者の方たちとのつながりを大切にしている方で、どんな人たちとどんな連携を取られてきたかをお話しくださいます。

ー それは大変興味深いですね。

そして第6講は山本成樹さん。浄土真宗本願寺派の僧侶でありながら、三菱京都病院のビハーラ僧としても勤務されるスピリチュアルケアの第一人者です。医療現場での僧侶の取り組みをお話してもらいます。

山本成樹さん(画像提供:文化時報社)

ー ビハーラ僧や、スピリチュアルケアなど、聞きなれないことばが出てきました。少し解説してもらえますか?

人の痛みには、身体的な痛み、社会的な痛み、心理的な痛みに加えて、スピリチュアルペイン(霊魂的な痛み)があると言われています。

ー 霊魂的な痛み?

はい。たとえば「死ぬのが怖い」「死んだらどうなるのか」「なぜ自分だけが病気になったのだろうか」などです。そうしたスピリチュアルな部分の痛みや苦しみのケアに取り組む僧侶がビハーラ僧です。スピリチュアルペインはさまざまな場所で起きるものですが、現状では主に終末医療の現場でビハーラ僧の活躍が期待されています。

ー 山本さんは、終末医療の現場で医師や看護師の方々とともに患者さんに向き合っているのですね。

はい。とても貴重なお話が聞けると思います。そして、最後の第7講では、再び三浦さんにご登壇いただき、さまざまなケーススタディを受講者と一緒に考えていきます。

講座配信の様子(画像提供:文化時報社)

コンパスを携えて白紙の地図を埋めてほしい

ー こうしたオンライン講座を受けて、いよいよ実践現場に出ていこう! ということですね。

そうなんですが、この講座はあくまでも入り口です。講座を受けたからって全てが身につくわけではありません。

ー そ、そうですよね。

私はよく「コンパスと白紙の地図」と表現しています。

ー コンパスと白紙の地図?

はい。講座はコンパス。そしてみなさんに白紙の地図をお渡しするのだと。あとは、自分たちの足で現場に出向き、白紙の地図を埋めてほしいと。

ー はい。

お檀家さんや地域の方、たくさんの困っている人があなたの周りにいるはずです。まずはその人たちの想いに寄り添って、必要な専門家の力を借りて、ケア活動に取り組んでほしいと、思うのです。

ー はい。

福祉仏教入門講座は、オンラインの座学を受けて終わりじゃない。受講者たちの横のつながりを活発に行っています。ですから、ここをベースキャンプにしてもらい、それぞれの現場でとにかくトライしてもらいたいです。

ー 仲間は、全国にいるんだぞと。

そうです。仏教にはたくさんの可能性があるのに、いまの日本社会では危機的な状況にある。まずは、大衆にではなく、目の前のひとりの救いとなるお坊さんになってほしい。天台宗には「一隅を照らす」という言葉があります。真言宗にも「虚空尽き 涅槃尽き 衆生尽きなば 我が願いも尽きなむ」という言葉があります。

ー 阿弥陀如来のご請願にも、「一人残らず絶対に救う」とあります。

世界的な取り組みであるSDGs(持続可能な開発目標)も「誰一人取り残さない」社会の実現を目指していて、とても仏教的な思想に近い。文化時報としては、これからの仏教のあり方として福祉仏教を提案し、社会と仏教をつないでいきたいと強く思います。

新聞社による社会と仏教をつなぐ取り組み。福祉仏教入門講座は、いままさにお坊さんの力が必要な人たちのもとに駆け付けるための後押しとなってくれそうです。

 


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資料提供:文化時報社

2021年度第2期は10月10日開講。申し込み締め切りは10月3日です。興味があるお坊さんはお急ぎを!

 


構成・文・撮影 玉川将人