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なぜ毎日新聞は仏教に力を入れるのか-毎日新聞社「つなぐ寺」を突撃訪問(後編)
毎日新聞社が手がける
お坊さんと出会えるポータルサイト
「つなぐ寺」
普段足を踏み入れることのない
梅田のオフィス街。
毎日新聞大阪本社ビルの16階で
なかばドキドキしながらの取材です。
前編では
つなぐ寺の立ち上げについて
語っていただきました。
後編は、
プロジェクトチームの3人に
これからの時代に仏教が果たせることや
お寺や仏教の魅力について伺いました。
なぜ新聞社が仏教に力を入れるのか。
新聞社の社員として、一個人として
その想いを熱く語って下さいました。
▶取材に応じて下さった「つなぐ寺」プロジェクトチームのお三方です。
(左)藤原禎恵さん(大阪事業本部事業部)
(中)花澤茂人さん(編集局学芸部)
(右)濱弘明さん(大阪事業本部次長)
前編がまだの方は、まずはこちらから!
小さい時、よく素心に行ってました
― みなさんと仏教の出会いを聞いていきたいと思います。
花澤さん 私は生まれが千葉で、在家出身です。お寺の息子とかではありません。でも、不思議と幼いころから仏教にシンパシーを感じていました。京都の大学に進学した友人のところに行ってはお寺巡りをしてましたね。
― へえ。そのルーツの記憶ってありますか。
花澤さん そうですね。母が少し仏教好きで、中宮寺の菩薩半跏像のお面を壁に飾ったりしてましたね。
濱さん それはすごい!
藤原さん マニアックですね(笑)
花澤さん 幼心にすごく怖かったんですけど、母はそういうのが好きでしたね。
― それで刷り込まれていった感じですか?
花澤さん そうかもしれないですね(笑)
花澤茂人さん
― 藤原さんはいかがですか?
藤原さん 私はもともと祖母と一緒に暮らしていたため、祖母が仏さまに手を合わす姿をずっと見ていました。
― へえ。
藤原さん 毎日お仏壇に般若心経あげたり、近くのお地蔵さんや公民館の横のお堂にお参りしたり。ですから幼少期のころから仏教が身近な存在でしたね。
― 仏壇屋さんからすると、とっても素敵な幼児体験ですね。
藤原さん 私、加古川出身なので、素心さんにもよく行ってましたよ。
― えっ⁉ そうなんですか?
藤原さん はい。おばあちゃんと一緒にお線香買いに行ってましたよ(笑)
花澤さん この取材のことを藤原さんに話したら、「えっ? あの素心が?」って、少しはしゃぎ気味でした。
― そうでしたか(笑)
幼き藤原さんも通ったという「あの素心」。(加古川本店)
藤原さん 祖母はお遍路さんもしてて、お大師さんの掛け軸もあったりして、本当に仏教が、自然に、身近にありましたね。
― なるほどです。
藤原さん そんなこんなで大学で仏教美術を専攻することになったんです。
藤原貞恵さん
― 濱さんにとっての仏教との出会いは、どういったものでしたか?
濱さん 私も田舎で育っているので、日常的にお経を唱えるところを見てきました。
― 田舎とは、どちらなんですか?
濱さん 大阪の能勢です。
― 能勢は、大阪と言っても山林や田畑が多くあるところですもんね。
濱さん そうですね。あと私の場合、前の部署が学芸部で、その前が大津支局の支局長。その時に比叡山や石山寺に行ったりして、仕事上でかなり仏教と関わり合いがあったのも大きかったですね。
― なるほど。
濱さん まあ、この2人に比べると「なんとなく分かる」くらいですかね(笑)
濱弘明さん
話す仏教 聴く仏教
― 昨年末(2020年)つなぐ寺が始まってから、なぜ毎日新聞が仏教に力を入れるのかをずっと聞いてみたかったのですが、みなさんはこれからの時代、仏教にどのような可能性を感じていますか?
花澤さん 個人的に思うのは「聴く」姿勢が求められると思います。
― 聴く姿勢、ですか?
花澤さん はい。京都支局に配属だった時に「ビハーラ僧」と出会いました。ビハーラ僧とは、福祉や医療の現場で患者の声に耳を傾け、寄り添う僧侶のことです。京都府の「あそかビハーラ病院」ではビハーラ僧が常駐して、終末期の患者さんのケアを行っているのですが、そちらを密着取材したときの経験がいまでも忘れられません。
― そうでしたか。
花澤さん ビハーラ僧の方に訊いたんです。「私はもう死ぬのですか?」「死ぬのが怖い」「死んだらどうなる?」というようなことを訊かれたらどう答えるのですかと。
― ええ。
花澤さん 私はてっきり、仏教の教えを説いたり、宗教的な話をするのかと思っていたんです。しかし彼らは「どうしてそのように思うのですか」と、逆に患者さんの心の内側に入り込んで、とにかく耳を傾けようとするのだと。その答えがとても印象的でした。
― なぜそこが印象的だったのでしょうか?
花澤さん 教えの発信も大事ですが、一方で仏教は悩みや不安を受け止めることができるものでもあるんだなあと。いま、いろいろなことに悩み、苦しんでいる人が多い。話を聴いてもらうことで、自分の中に気づきが生まれ、救われることがあるんだろうなと感じたのです。
― 実際に現場に立ち会って、印象的なエピソードはありましたか?
花澤さん やりとりは他愛ない話ですが、その向き合い方に感銘を受けました。終末期の人を救うための正解やマニュアルなんてありません。自分が無力だとしても「『この人のために』と徹底的に考え抜く姿勢」本当に、利他行だと思います。
― 法話や動画配信は、いわば「話す仏教」ですよね。一方で、花澤さんは「聴く仏教」に価値を感じておられる。
花澤さん そうか。そうですね。矛盾してるかな…。
― いえいえ、そうじゃないんです。むしろつなぐ寺で取り上げるお坊さん方は、聴く姿勢、受け止める力を持たれている方なのかなと。
花澤さん ああ、それはあると思います。
― そのあたりが、つなぐ寺の人選の基準なのかなあと、考えちゃいました。
花澤さん なるほど。それはちょっと自分でも気づきませんでした。メモしておきます。
年をとるとお寺に行きたくなる その理由
― 藤原さんはいかがですか?
藤原さん H1法話グランプリに参加したり、動画配信を精力的にされている方々は、檀家さんが減っていく中で、仏教の教えのすばらしさを一人でも多くの人に伝えたいという高い志を持っておられます。そういう想いを一緒に伝えていくのが、新聞社としてできることなのかなと思います。
― 伝えるとは、まさに新聞社の強みですもんね。
藤原さん はい。
― 藤原さんは、つなぐ寺だけでなく、事業部としてもお寺でのイベントなどを手掛けられています。仏教やお寺という場所に人々のニーズを感じますか?
藤原さん ニーズはもちろんありますよ。高齢者の方が多い傾向ですが、展覧会をヒットさせることで若い人がお寺に足を踏み入れるきっかけになります。新聞社が仏教に貢献できる点だと思います。
― 高齢者の方って、なんでお寺が好きなんですかね?
藤原さん うーん。そうですね。ちっちゃい頃からお寺になじみがあった、とかじゃないですか? 世代的なものかなと…。
濱さん 人生年取ってくるとね、仏教の教えがいいものに思えてくるんですよ。
― なるほど!
濱さん 生きているといろんなことを考え、悩みます。そのほとんどに対して仏教は答えを持っているんです。これは私自身の実感としてもね。だから、年を重ねるごとにヒントを探りにお寺に足を運ぶのかもしれないですね。
― 仏教の教えを学ぶなら、本でも、動画でもいい。なぜ、お寺という空間が好まれているのかなと…。つなぐ寺さんがネットでの動画配信とお寺でのイベントを掛け合わすことの意味や可能性がこのへんにあるような気がします。
濱さん そうですね。頭で考えるだけでなく、お寺に行ってこそ感じるものがありますよね。
― 考えずに、感じる。ですね。
濱さん はい。
毎日新聞が仏教に力を入れる理由
花澤さん お寺って、それが観光寺院も地域のお寺も、いろんな意味で「つながり」を感じられる場所だと思うんです。
― はい。
花澤さん 地域のお寺には古いご先祖様が祀られている。観光寺院もそこにある古い仏像や文化財がある。ともに先人たちとのつながりです。
― なるほど。
濱さん 一方で、お寺には地域をつなぐ力があります。そこに人が集まることで共通の価値観、規範をみんなの中に植え付けていく役割があったと思うんです。
― はい。
濱さん そこが希薄になると人それぞれが勝手なことを考え出しちゃう。それが今の世の中の状況だと思います。地域コミュニティの中心ということは、人とのつながりだけでなく、共通の価値観や規範のベースでもあるんです。
― なるほど。祖先や歴史という縦軸のつながりと、地域社会という横軸のつながりの交差点がお寺なんですね。
花澤さん そう思いますね。
濱さん さらには、さっきのビハーラの話につながりますけど、人間が生きる、そして消えていくところを支えているのは宗教です。科学的な医療だけでは限界がある。私たち人間を安定させる、幸せにする役割というものを、改めて宗教に担ってほしいなという想いがありますね。
― 毎日新聞が仏教に力を入れる理由が見えてきたように思います。
花澤さん はい。地域社会が崩壊している反面、ネット上では新たなつながりが増幅しています。リアルとネットの両輪で、お寺を中心とするコミュニティがたくさん生まれる、そのきっかけにつなぐ寺がなればいいなと思います。
16階の会議室から見下ろす梅田のオフィス街。「こころね」が立ち上げ半年でこんなところに来れるだなんてと、はじめは少しおののきましたが、無事に取材を終えることができました。
【おまけトーク】新聞は毎日新聞、お仏壇は素心で。
― 今日は本当にありがとうございました。
全員 ありがとうございました。
― 大変刺激的でした。こころねも負けじとがんばります。
花澤さん こちらこそ、こうやって注目していただくのはすごく嬉しいです。
藤原さん そうですね。
濱さん つなぐ寺は、社内でもまだまだ注目されていないですからね(笑)
― そうなんですか?
全員 (笑)
― みなさんは毎日新聞というマスメディアとして、こちらは仏壇店メディアとして、ともに仏教と人々をつないでいければなと思います。
藤原さん そうですね。
― 最後にですが、みなさんお仏壇はお持ちですか?
藤原さん 実家にはあります。
濱さん 私もですね。
花澤さん 実は私、得度を受けてまして…。
― えっ? そうだったんですか?
花澤さん はい。華厳宗、東大寺で。
― へえ。
花澤さん 毎朝お経は上げているんですけど、お仏壇がないので、カラーボックスみたいな、ちっちゃい棚に仏様を置いて、お線香をあげてお経を唱えています。
― いやあ、今はそれで十分じゃないですか。
花澤さん 東大寺の本尊は毘盧遮那仏ですが、どの仏様でないと祀ってはいけないといったルールはないと思います。阿弥陀さまでも観音さまでもいい。いま私の家にあるのはお釈迦様のフィギュアです。
― フィギュア?
花澤さん はい。東大寺の職員さんにプレゼントしてもらったかわいい誕生釈迦に手を合わせています。かわいくて、思い入れがあるので、そちらをご本尊にしています。でも、いつかは仏壇ほしいと思っていますね
― ご自宅はどちらですか?
花澤さん 奈良です。
― じゃあ、全然配達しますよ。
全員 (笑)
― 新聞は毎日新聞。お仏壇は素心で(笑)
花澤さん 分かりました。いつか検討しますね。
― 今日は本当に、ありがとうございました!
全員 ありがとうございました。
こころねが一方的に同志と思っていたつなぐ寺。志はどうやら同じだったようです。私たちが幸せに生きていくために仏教が果たせること。その魅力やすばらしさを、これからも実直に伝えていきたいと思います。こんなに心強い同志がいて、本当に、嬉しく思います。
▶毎日新聞社「つなぐ寺~お寺と出会えるポータルサイト」
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※本記事の取材は令和3年7月7日に行われました。写真撮影以外の場面では、マスクの着用やソーシャルディスタンスなど、新型コロナウイルス対策を講じております。
構成・文・撮影 玉川将人