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丙午の初午祭にお参りするとご利益倍増?安志稲荷神社の宮司に訊く『お稲荷さんと午年の関係』

今年は午年。
勇ましく走る馬のように
ぱっかぱっかと
前進したいものです。
ところで
2月の「初午」の日は
日本全国の稲荷神社で
「初午祭」が行われます。
午年の初午祭。
これはご利益倍増なのでは⁉
そんな下心満載の
こころね編集部は
兵庫県を代表する稲荷神社
「安志加茂神社・稲荷神社」に
馬のごとく急行。
のどかな風景に突如現れる
あの巨大でかわいらしい
馬の『大干支』に圧倒されつつ
宮司の真田慶樹さんに
たっぷりお話を伺いました。
馬とキツネと稲荷神社
ーー あけましておめでとうございます。今日は突然のご訪問、恐れ入ります。
真田慶樹宮司(以下略) いえいえ、お稲荷さんに興味を持って下さり、とても嬉しいです。
ーー 今年は午年ですよね。しかも稲荷神社では2月に「初午祭」なるものをするのだとか。午年の初午。これは、ご利益倍増な気がしまして、お話を伺いに参りました。
たしかに、清らかな心でお参りしてもらえると、神様からのご利益を授かるかもしれませんね。

安志加茂神社・稲荷神社(姫路市安富町)の真田慶樹宮司
ーー まずは素朴な疑問から。お稲荷さんってキツネのイメージがありますが、馬とも深いつながりがあるのですか?
そうです。稲荷神社の始まりは、京都の伏見稲荷大社になるのですが、伏見の稲荷山に稲荷明神という神様が降り立ったのが、「和銅4年(711年)の如月の初午の日」でした。そのことから、稲荷神社では2月のはじめの午の日を大事にしているんです。
ーー なるほど! では、キツネの役割は?
キツネはあくまで神様の使いですが、そこには農業国・日本ならではの深い理由があるんです。旧暦の2月は今でいう3月です。
ーー 春の足音が聞こえてくる頃ですね。
実はキツネは、田んぼを荒らすネズミを食べてくれる益獣でもあります。春の訪れとともに山から里へ下りてくるその姿を見て、昔の人は「稲を守る神様が、キツネの姿を借りてやってきた」と考えました。
ーー 馬にキツネに……。稲荷神社は動物たちも一緒でにぎやかなのですね。
神様の使いとしての動物は他にもたくさんいますよ。八幡さまはハト、天神さまはウシ、神宮はニワトリ、でも馬は「神馬」と呼ばれ、すべての神様の乗り物として大事にされています。

稲荷神社の境内には、あちこちにキツネが祀られている。

本家本元の京都・伏見稲荷大社。稲荷山の山頂まで往復約2時間の登拝をする人も少なくない。画像は山頂の「一ノ峰」

「四つ辻」と呼ばれる場所からは京都市街を見下ろせる。
今年は60年に一度の丙午
ーー ところで、午年って、そもそもどんな年なんでしょうか?
12年に一度巡ってくる十二支の中でも、もっともエネルギーに満ち溢れているのが午年と言えるかもしれません。たとえば、太陽が天高く登る時刻を「正午」と言って、「午」の字があてがわれていますよね。
ーー たしかに。
しかも、十二支の7番目にやって来る午は、方角では真南にあたります。最も生命エネルギーが強く、明るく満ちあふれる光の象徴といえるでしょう。
ーー 馬って、そもそも勇ましく、躍動感にあふれてますもんね。
しかも今年は丙午です。十干の「丙」と十二支の「午」が組み合わさる、午年の中でも60年に一度やって来る最強の年回りです。
ーー たしかに! 丙午ですね。
丙も午も、どちらも五行の中の「火」を表しています。火は、太陽、情熱、明るさ、活発さなどの象徴です。
ーー そうなんですね。ところで、五行とは?
古代中国から伝わる考え方で、世界を成り立たせる5つの要素、木・火・土・金・水のことです。十干、十二支ともに五行のいずれかがあてがわれるのですが、丙も、午も、火の要素なんです。
ーー よく「丙午生まれの人は、エネルギーが溢れすぎて気性が荒い」と聞きます。
たしかによくそう言いますよね。でもそれは決して悪いことではありません。その溢れる力をむしろ世のため人のために活かすことで、世界はもっとやさしく豊かになるのではと、私は考えています。
ーー そうですよね。
火は万物を照らし、温め、浄化する力を持ちます。丙午は、情熱と光が最高潮に達する年です。私にも、今年孫ができます。丙午に生まれて、元気いっぱいに育ってほしいなと思います。
ーー それはすばらしい。おめでたいですね!
あらゆるものには二面性があります。丙午の迷信は、その片方しか捉えていないですね。火はあらゆるものを燃やしつくす恐ろしいものである一方、光や熱やエネルギーとなって私たちに恵みを与えてくれます。これは水だって、大地だって、同じですよね。大切なのは、その二面性のバランスではないでしょうか。

境内には、樹齢数百年にも及ぶ杉の木がそびえ立つ。神社が紡いできた年月の長さに心が癒される。
ーー ちなみに、稲荷神社のお社や鳥居が赤いのにも理由があるのでしょうか?
諸説ありますが、朱色は古来より魔を祓う力があるとされ、多くの神社仏閣で大切にされてきました。特にお稲荷様においては、そのお力の豊かさ、つまり『五穀豊穣』を象徴する色であると伝えられています
ーー はい。
かつて朱の原材料は丹(水銀鉱石である「辰砂」を砕いて作られた顔料)と呼ばれるものでした。丹は昔から木材の防腐剤として使われてきましたし、長寿の薬の原料として用いられていました。こうした縁起や健康長寿への願いが、稲荷神社を赤くしたのかもしれません。

赤い鳥居が並ぶ「千本鳥居」も、稲荷神社ならではの景観。
安志稲荷といえば、稲穂でできた『大干支』
ーー さて、安志稲荷神社といえば、なんと言っても『大干支』ですよね。私もさっき、スマホで写真撮って、インスタにアップしました。
ありがとうございます。うちの神社のご神田で実った稲穂で作られているんですよ。
ーー 藁じゃないんですね。
稲荷神社に奉納する干支飾りですから、藁じゃ意味がありません。稲なんです。
ーー ごもっともです。

安志稲荷神社名物の『大干支』。その年の干支飾りが奉納される。期間は3月31日まで。
この大干支は、一年という時間をかけて地域のみんなで育てます。春先には地元の幼稚園児たちが一生懸命に種をまき、泥んこになりながら田植えをしてくれます。毎年6月に行われる『御田植祭』では、地元の中学生たちも早乙女の姿になって、田植えを手伝ってくれています。


御田植祭は、地元の子どもたちや中学生とともに行われる(出典:安志加茂・稲荷神社Instagramより)
ーー 子どもたちが種から育てているんですね。それは、神様もきっとお喜びになりますね。
本当にそうですね。そして収穫を終えた11月、今度は大人の出番です。境内に足場を組み、地元の工務店さんたちが、約1ヶ月かけてこの巨大な姿を形にしていくんです。

大干支は地元工務店の力を借りて作られる(出典:安志加茂・稲荷神社Instagramより)
ーー 安志の里で実った稲穂で、安志の人たちとともに作り上げた干支飾りなのですね。
そもそも、「稲荷」という言葉は「稲が成る」という意味でした。一粒の種からたくさん稲穂が実る稲の姿は、大昔から日本人にとって五穀豊穣や商売繁盛の象徴でした。だからこそ私たちは、藁ではなく、実りの象徴である「稲」で干支を作ることにこだわっているんです。
ーー お参りする際、つい「願い事」ばかり考えがちですが、その背景にある「実り」のありがたさを忘れてはいけませんね。
そうですね。ご利益やパワーをいただくのはもちろんですが、同時に、私たちを生かしてくれる自然の恵みや、私たちを見守って下さっている神様への「感謝」も、この大干支を通じて思い出していただければ嬉しいですね。
2月の初午は、お近くの稲荷神社へ!
ーー 2026年の2月の初午は2月1日です。この記事を読んで下さっている読者の方も近くのお稲荷さんにお参りしてほしいですね。そして姫路界隈の方はぜひとも安志稲荷神社へ!
ごめんなさい。うちの初午祭は2月1日じゃないんです。
ーー えっ? そうなんですか。
はい。当社では、2月11日に初午祭を執り行い、あわせて「厄除け安全祈願祭」を行っています。
ーー なるほど! ということは、2月1日に他の稲荷神社にお参りをして、2月11日には安志稲荷さまをお参りすることで、丙午の初午祭のご利益が、より倍増しそうですね。
ありがとうございます。お参りの方に福徳がもたらされ、皆様方の願いが叶う年になるよう、心を込めて祈願させていただきます。

京都の上賀茂神社の御分霊を祀る安志加茂神社。当社の『葵祭』はかつて「馬駈け祭り」と呼ばれ、馬とのご縁が深い。
「下心満載」で訪れた取材でしたが、真田宮司の話を伺ううちに、神社や十二支に想いを馳せる、人々のいとなみの深さを感じたのは私だけでしょうか。
2026年、丙午。2月11日、安志の空の下では、地域の人々の手によって育まれた黄金色に輝く馬の「大干支」があなたを待っています。まずは日頃の感謝を伝え、神様からのありがたいお力を授かり、何事もうま(馬)くいく、そんな一年にしたいものですね。
▶安志加茂・稲荷神社の公式Webサイトはこちら
▶安志加茂・稲荷神社の公式Instagramはこちら
取材・撮影・文 玉川将人
