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なぜ若者は仏教の法話を聞きたがるのか-お坊さんTikTokerが語るお寺とネットの未来(前編)
YoutubeとTikTokで
独特なスタイルの法話で人気を博す
平成生まれの僧侶
姫路市正明寺の副住職・小林恵俊さん
スマホから流れてくる恵俊さんの法話に
多くの若者が共感を寄せ
TikTokの登録者数は6万人
最大再生回数は300万回をも超えます
まもなく30歳を迎える僧侶が語る
ネットと、お寺と、ご自身について
前後編に分けて、お届けします
まず前編は
YouTubeやTikTokを通じて見える
現代の若者の姿と
インターネットの可能性を
ご自身の体験をもとに語っていただきました
サメに、説法
—YouTubeとTiktokを精力的にされています。どういうきっかけで始められたのですか?
YouTubeを始める前に、あるお坊さんから「H1法話グランプリ」という、宗派を超えた僧侶が集まって法話を競うイベントに誘われて、それに参加してから法話にのめり込んで行きました。
H1で出会った僧侶の中にはすでにYouTube配信を始めている人もいていつか自分もやりたいなあと思っていたんです。
— はい。
そのあとにコロナ禍がやってきて、お参りや法事ができなくなってしまった。そこでいま何ができるかなと考えて、YouTubeの配信を始めました。
— コロナ禍で、仏教界はかなり早くから動画配信にとり組み始めました。そして、個人レベルでもYouTubeを始めるお坊さんたちが急増しましたよね。
そうですね。
— そんな中で、独特な「サメに説法」スタイルが注目を集めました。
正面から見据えられると、話を聞く方に力が入ってしまう。
それよりも、だれかに語りかけている姿を見てもらう方がいいかなと。
— お経のほとんども、お釈迦様が弟子に教えを説く設定で書かれていますもんね。
そうですね。
— 説法のお相手をサメにしたのはなぜですか?
妻がインスタで使っていたのを借りただけです。IKEAで買ったものです。
— 名前は?
サメくんです。
YouTubeでおなじみのサメくん。意外に粗雑に掴まれる。
二人揃うと、納まりがいい。
TikTokが、バズる
— そして、TikTokも始めます。きっかけは?
YouTubeを始めて少し経ったころに、あるお坊さんに誘われたんです。
若い人には若い人向けのツールの方が伝わりやすいと。
— TikTokでは2本目の動画がいきなりバズりました。
TikTokだったらフォロワー数千人なんてすぐにいく。
そう言われた時は「んなことないやろ」なんて思っていたので、バズった時は本当に驚きました。
@eshunsame
投稿2本目のバズ動画。「かわいかった動物が死んだ”だけで”気持ち悪がられてしまうのは可哀想。だからまず手を合わせて『南無阿弥陀仏』と唱えましょう。」と話した動画に、6,000を超えるコメントが寄せられた。(リンク先、音声注意)
— たった7人だったフォロワーが、2本目で3,000人。
3本目には2万人にまで増えましたね。
— 戸惑いはなかったですか?
よくSNS界隈では「フォロワーの数はこちらを向く銃口の数」と言われますが、本当にそれを感じましたね。
— すごいことばですね。実際に「銃弾」は飛んできましたか?
銃弾はないですが、厳しいコメントをいただくことはありますよ。次の動画を上げるのが怖くなります。
スマホ越しに耳を傾ける若者の姿
— それでもTikTokのコメント欄では「深い」「ありがとう」「いい話を聞けた」などのことばが並びます。恵俊さんのことばがきちんと受け止められている。
ありがたいです。
— TikTokのユーザー層は圧倒的に10代や20代が多いです。彼らは何を求めて恵俊さんの法話にアクセスするのでしょうか?
そうですねえ…
多感な時期ですからね、死生観的なところで考えたり、感じたりすることが多いのだと思います。
— 普段そういうことを話せる場って、ないですもんね。
「お坊さん=死に関わっている職業」という風に思っているでしょうから、そうした話を聞いてみたいのだと思います。
— はい。
先日、Zoomを使って大学生と話す機会があったんです。
— はい。
そこで聞いたのですが、いまの学生たちもお寺巡りはすごく好きなんだそうです。でも、お坊さんの話はじっくり聴いたことがない。そういう人がほとんどでした。
— そうですか。
興味はあるけど、聴く場がない、という感じなのかもしれませんね。
— お坊さん側からしても、若い人たちに向けた布教の場がないという状況が長らく続いていました。
はい。
— その可能性を、ネットによる動画配信が切り開こうとしていると言えるのかもしれませんね。
TikTokには10代や20代といった若い世代から数多くのコメントが寄せられる。そこには「死」や「生」などのことばが目につく。
「お坊さんは、おばあちゃんみたいな存在」
以前、若い視聴者の方からおもしろいDMをいただいたんです。
— へえ。
お坊さんって、おばあちゃんみたいにやさしくいろんなことを話してくれる存在だと。
— おばあちゃんというのが、いい響きですね。
はい。
— おばあちゃんって、やさしくて、いろんなこと知ってて、その上、自分たちのルーツでもある。
きっといまの若い人たちには、自分たちの身の回りにある価値観とは、別のものに触れたい。そうした欲求があるのだと感じます。
— なるほどです。あと、「やさしさ」を求めているようにも思いますが…?
そうかもしれませんね。
— 『鬼滅の刃』が大ヒットしました。仏教との親和性をたくさんの方が指摘していますが、これも人々がやさしい物語を求めているからなのでしょうか。
きっと、そうですね。でもそれは、生きづらさの裏返しでもあるような気がします。
— なるほど。
TikTokではみんな気軽にコメントを書きますが、動画の感想だけでなく、自分の身の回りにあったこともすぐに書き込むんです。
— へえ。
「学校でこんなことがあった」とか「仕事を辞めようか悩んでいる」とか。みんな、悩んでいるんですよね。
— 返信はしますか?
すべてのコメントにはできませんが、必要だなと思うものにはしています。でも、書き込む側からすると、私とのラリーがなくても、とりあえず、書き込みたいのだと思います。
— たくさんの若い人たちが、恵俊さんの動画にアクセスして、深い話を聞きたい、やさしいことばに癒されたい、そう思っているのでしょうね。
だとすると、ありがたいですね。
YouTubeとTikTokに活動の場を置く恵俊さんは、一方でお寺の副住職でもあります。ネット空間とリアルなお寺を行き来する中で起こる、若き僧侶の想いと葛藤。次回は、21世紀のお寺のあり方を模索する恵俊さんの胸の内を言葉にしてくださいました。
続きは後編をお楽しみください。
小林恵俊さんの手掛けるYouTube、TikTokはこちらから!
Twitterからも積極的に配信されています。
YouTube「僧侶えしゅんのサメに説法」
TikTok「えしゅんお寺の1分法話」
Twitter @esyunsyomyoji
構成・文 玉川将人
撮影 西内一志