下書き

インディペンデントに生きる|中村明珍さんロングインタビュー2/3(島暮らし編)

|

山口県 周防大島
瀬戸内海に浮かぶ島の上に
自らの足で立ち
自らの頭で考えて
日々を暮らすチンさん。

ギターを手放した手はいま
鍬を握り
神仏に向けて合掌します。

3回に渡るロングインタビュー
第2回は「島暮らし編」

農業と仏教
日々を「泥臭く暮らす」と話す
チンさんによる幸福論です。

「何しようか」「畑でもやれば」

ー 農業をしようと思われたのにはどういうきっかけがあったのですか?

東京を離れるとなった時に、音楽をもう一度やろうという気はなくて、「じゃあ何しようか?」となって、妻が「畑やれば」って。

ー 出家の時もですけど、奥さまのいさぎよさが気持ちいいですね(笑)

それ以外にもいくつかありまして…。木村明則さんの自伝『奇跡のリンゴ』(※)がものすごく面白くて、いつかお会いしたいなあとずっと思っていました。数年後、東京から周防大島への移住が決まった時、「これでもしもご縁ができたら農家をやれ、もしご縁がなかったらやるなってことだな」と願を掛けて連絡をとると、なんとお会いできてしまった。そしていきさつをいろいろと話すと「おやりなさい」と。

(※)木村明則さんは青森県のリンゴ農家。絶対に不可能と言われていた無農薬リンゴの栽培を世界で初めて成功させ、舞台、書籍、映画化もされています。

ー 面白いと感じたのは、木村さんに対してですか? それとも農業に対してですか?

木村さんがする農業が、ですね。とっかかりは人の魅力なんです。どんなに周りから馬鹿にされても木村さんは愚直に無農薬栽培に挑み続ける。自分の考えを徹底している人の話って、面白くてカッコいいですよね。木村さんの場合は、ご自身の生き様がそのままリンゴという結果となって、食べれるところにまで行ってしまうのだから、すごいことです。果実が実を結ぶことが文字通り、その生き方の「結果」になるわけです。

▲周防大島町の名産はみかん。あちこちに橙色のみかんが育っています。

農業と仏教の似ているところ

僕、農業と仏教に似通っているところを結構感じていて…。

ー 具体的にどのあたりにですか?

仏教のことばには農業的な概念が結構多いんです。たとえばさっきの「結果」に似ているんですけど、仏教用語に「仏果ぶっか」というのがあって、これは悟りや成仏という結果を意味することばです。他にも「種子しゅじ」(どんな人の中にも備わる仏性=仏になれるための素質)とかですね。

ー 言われてみると、そうですね。

あと、田植えをしていると水の流れがよく分かって、これもいろんなことに関連付けて考えられる。たとえばお寺を建てるときには治水をものすごく大切に考えます。水の流れをそのまま気の流れと見立てて、境内にいい気が流れこむようにするためです。これは田んぼも同じです。あと、土を触っていると、やっぱり縁起に考えが及んでしまう。

ー 音楽と同じで、農業も関係しあうことが大事なのですね。

はい。たとえば現代は慣行農法、つまり農薬を使った計画的で管理的な農業が一般です。肥料を投入して、虫が出たら、また予防のために薬を撒いて、といった感じです。その方法で結果が出るし、それは素晴らしくて大切なことなんですけど、もっと大きな視野で、自然の摂理という点まで引き上げて考えてみると、うーん…という。

ー 自然の摂理に反して人間主導になっちゃっている?

そうなんです。土には土のご都合があるはずなのに、人間の計画で、土や木のご都合を管理しちゃっている。それは縁起的な発想とは違うんですよね。もちろん、きちんと稼いで食べなきゃいけないわけで、現実的に経済を回していくには大事な方法だと思うんですけど、そこれそ自我のぶつかりあいで、それだけだとなんだか救われない、そんな気がします。

ー 土だけじゃなくて、きっと太陽にも、雨にも、それぞれのご都合がありますもんね。

そう。土を耕して、草を抜いて、虫を見つけて、種を植えて、育てて、雨やお日様に委ねて、実って、収穫して…。ひとつの農作物ができ上がるにはいろいろなものが関わり合っている。農業をしていると縁起について、理屈抜きで体験できます。仏教観を育むためにも、農業をやってよかったなと思います。

インディペンデントに生きる

― 著書の『ダンス・イン・ザ・ファーム』。表紙がむちゃくちゃカッコいいですよね。

これは僕の中で大事件で、大変尊敬するティム・カーという方が描いて下さったものなんです。

アメリカでインディペンデント(自立的)な生き方を実践されている伝説の方で、いまも現役のギタリストでミュージシャンでありながら、イラスト、写真、スケートボード、そして呼吸する人。

ー 呼吸する人?

プロフィールで自分をそう名乗るんです。便宜上ジャンルや肩書きが必要な場面はあっても本来は呼吸しているだけ、っていうのがカッコよくて、僕にはしっくりきます。

ー チンさんも僧侶、農家、イベント、メディア、本の出版と、インディペンデントな生き方をしてますよね。

憧れもあるのですが、それに加えて求められるものに応えていくとこうなりました。実際はいろいろ大変で、日銭をどう稼げばいいかばかり考えています(笑)スローライフって聞こえはいいですけど、現実は毎日が泥臭くて、そのギャップを知ってもらおうと思って本を出したくらいですから。

― たとえ泥臭くても、インディペンデントな生活を憧れにとどまらずに実践までできているのはなぜでしょうか?

バンド時代に経験したインディーズの価値観、世界観が大きいです。音楽の世界のインディーズって、まさに「インディペンデント」から派生したことばで。メジャー(大手)と違ってインディーズの人たちは、活動の方針も、楽曲の制作も、流通も、販売も、ライブの企画も、全部自分たちの手で行ってきました。

ー 90年代や2000年代は、インディーズバンドがメジャーを凌ぐほどの勢いを見せていましたよね。

ですね。自分たちの頭で考え、自分たちの責任で行動する。それがカッコいいと思っていましたし、だからこそ泥臭いんです。

▲ロック雑誌を引っ張り出して、あこがれのティム・カーさんの魅力を熱く話すチンさん。

一周まわって江戸時代をアップデート

ー 音楽、仏道、農業、その他いろいろ。チンさんの中では違和感なく共存していると思うのですが、これらをつないでいるもの、共通しているものって何だと思いますか。

うーん。呼吸、ですかね。ティムの受け売りになっちゃいますが(笑)江戸時代の職業図鑑に「すたすた坊主」ってのがあったらしくて、客の代わりに神社やお寺にお参りに行くだけの仕事らしいんです。「そんなのが仕事⁉」って思いましたけど、江戸時代の細分化された職業の自由さが面白くて、かつてはそういうティムみたいな生き方も普通にあったんだなあって。百姓ってことばは、農業だけではなく「百の仕事」「百の名前」を指しているとも言われていますし。

ー チンさんもいろいろな仕事を垣根なく取り組んでいる。その生き方って新しいというより、一周まわって江戸時代をアップデートしてる感じですね。現代の百姓というか。

ああ、なるほど。

ー しかもその拠点が大島ってのがおもしろい。海運が盛んだった江戸時代、周防大島はヒト、モノ、情報が行きかう場所だったそうですもんね。

そうそう。

ー 島の外からやってきたチンさんが、リアルで島の人と、ネットで日本や世界の人とつながって、そのさまを発信している。大島発の人間らしい生き方が新しさを伴ってたくさんの人に注目されている。しかも仏教的な発想をベースにして。わくわくします。

ありがとうございます。

ー 僧侶とは言ってもいまはまだお寺を守っているわけではなくて、でも、お坊さんってこういう形でもいいんだなと気づかせてもらいました。

お寺の住職をというお話をいただくこともあるのですが、いまはまだご縁がなくて。でも音楽やっていた頃から、職人的にひとつのことを極めたり、職業という枠組みに囚われることよりも、自分がいいなと思うものであればいろいろまたいじゃうタイプの人間だと思います。そういう意味では、仏教も農業も、見る人から見ると中途半端に映るかもしれませんけど。

呼吸 生きていることの実感

ー 「呼吸」ということばの真意をもう少しくわしく聞かせてもらえますか?

呼吸って、生きてることそのもの。たとえば、バンドもひとつの社会なので、自分の生きてる実感を押し殺してでもバンド内のルールや方向性に合わせていかないといけない時がある。これは、学校や会社も同じですよね。社会の都合やルールってもちろん大事なんですけど、その前提として自分はただ呼吸するだけの存在なんだということに自覚的であることで、いざピンチになった時に立ち返る場所があるし、自分を救ってくれるのではないかなと、思います。

ー チンさんにとっては、それが音楽であり、仏教であり、農業であり、島暮らし、ということなんですよね。

そうです。あと仏教って、息を吸う、吐くという、呼吸そのものを意識できるじゃないですか。それが素敵ですよね。

ー 禅や瞑想のことですか?

はい。それもありますし、真言や念仏のように声に出すことも呼吸と共鳴することですから。無意識で行われる呼吸を意識できる方法論があるって、やっぱ、仏教って、すごいですよ。

▲表紙の原画は大切に額の中に納められている。(チンさんのご自宅にて)

次回(最終回)は、仏教のカッコよさについて語っていただきます。


全3回にわたるロングインタビュー。第1回と第3回はこちらから。

▶【第1回】パンクロッカー、僧侶になる(出家編)

▶【第3回】仏教はカッコいい(風待ち編)

▶著書『ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろ』はミシマ社公式HPからも買えます。チンさんの日々の暮らし、あたたかい人柄、そして生きることへの深い考察に触れることができます。


中村明珍氏 プロフィール

1978年東京生まれ。2013年までロックバンド「銀杏BOYZ」のギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、真言宗僧侶の傍ら「中村農園」で農業に取り組む。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。著書に『ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろ』(ミシマ社)、独立研究者の森田真生さんとのインターネットラジオ『生命ラジオ』、地元テレビやラジオなどメディア出演多数。


構成・文 玉川将人

撮影 西内一志